オリンピックが開催されても、鉄道網が整備されない理由:杉山淳一の時事日想(6/6 ページ)
2020年東京オリンピックの開催決定で、交通インフラの整備が活気づく。しかしJR東海はリニア中央新幹線の前倒し開業を否定、猪瀬都知事も鉄道整備に消極的だ。オリンピックは鉄道整備の理由にならない。それは1964年の東京オリンピックの教訓があるからだ。
首都高速をリニューアルせよ
以上、オリンピックに関連する路線、しない路線を含めて、2020年以降の鉄道、道路の動きをまとめてみた。すべての計画が実施されると、オリンピックに関係なく、東京圏の交通はますます便利になる。頼もしいことだと思う。
ただし、交通基盤はオリンピックの開催期間後も残り、むしろその後の運営が重要だ。オリンピックだからと建設を急げば、1964年の二の舞になってしまう。利用者の視点で考えてもオリンピック絡みの鉄道整備は効果が薄い。オリンピックで国内外から訪れる人々にとって、東京の鉄道路線は複雑すぎる。オリンピックで生まれる交通需要は一時的で、宿泊地から競技場まで直通してくれるバスのほうが便利だ。
そうなると、オリンピックで急がれる交通基盤整備は、実は新規の鉄道や高速道路ではなく、既存の首都高速の拡幅だと思われる。老朽化し慢性的な渋滞に見舞われる首都高速をスムーズにすれば、オリンピックも、その後の東京にもメリットは大きい。
そして最後に、私の心の師匠、平田孝氏の言葉を紹介したい(参照リンク)。1960年ローマオリンピックレスリング選手、1964年の東京オリンピックで国際審判員を務めた平田氏は言う。
「再度の誘致運動で巨費を投じて得た2度目の東京五輪開催。決まった瞬間から、便乗金儲けの話が多くなった。マスコミ報道も経済効果ばかりで誠に嘆かわしい」
「(東京オリンピックは)日本人の心身パワーを近隣諸国や世界に示すチャンスだ。前回の東京五輪を思い出し、2020までに、もう一度当時の逞しい日本を取り戻そう!」
確かに。日本がオリンピックで示すべきは、優れた交通システムなどではない。ここまで読ませておいてひどいオチだが、オリンピックと交通基盤の整備は別物だ。無理やりこじつけても良い結果にはならないだろう。
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