なぜ豪華列車「ななつ星in九州」に傷がついたのか:杉山淳一の時事日想(1/4 ページ)
JR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」がいよいよ発車する。日本の鉄道旅行の新展開であり、旅行業界にとっても期待の商材だ。しかし直前になって不穏な情報が2つ流れてきた。それは……。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。
10月15日、いよいよJR九州の豪華寝台列車「ななつ星in九州」の営業運行が始まる。これまで日本の豪華寝台列車といえば、東京―札幌間の「カシオペア」、大阪―札幌間の「トワイライトエクスプレス」が代表格だ。高級感のある列車サービスとしては東北新幹線の「グランクラス」が有名で、これは北陸新幹線でも導入予定で期待が高まる。
しかし「ななつ星in九州」はこれらの豪華列車の常識を変える。客車には温もりのある木材や伊万里焼など日本の伝統的な素材を使った。その豪華さから、客車の記号には「イ」「ロ」「ハ」の「イ」が与えられている。国鉄からの伝統的な客車記号で、現在は「ロ」がグリーン車、「ハ」が普通車だ。「イ」はグリーン車よりも格上で、新製車両としては1950年以来63年ぶりの「イ」となった。ちなみにカシオペアは全車両が「ロ」だ。
「ななつ星in九州」は供食サービスも一流だ。また、客室に泊まるだけではなく、途中で高級旅館に滞在する行程で販売される。従来の「乗車券」「特急券」「寝台券」で乗れる列車ではない。「ななつ星in九州」という名のパッケージとなっている。
JR九州のクルーズトレイン計画は2011年ころから浮上していた。JR九州などで活躍するデザイナー、水戸岡鋭治氏が展覧会でコンセプトアートを紹介し、寝台列車の旅の復活を提案していた。当時は3年から5年後と期待されていたが、その夢は意外と早く、約2年でかなえられた。
そのななつ星in九州に、残念な事件が起きてしまった。1つは試運転中に電柱と接触した事故。もう1つは、次回の募集から約20万円の値上げを検討していると報じられたことだ。どちらも歓迎しかねる話だ。しかし、まんざら悪い話でもなさそうである。
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