「ななつ星in九州」に見る、乗客をつくるビジネス:杉山淳一の時事日想(3/6 ページ)
鉄道会社が観光列車開発に力を入れ始めた。日本に新たな旅の文化が生まれたと言っていい。こうした「鉄道で遊ぶビジネス」は、鉄道会社が苦手としていたが、他の業界では当たり前のことだった。
JR九州の乗客減の理由
JR九州の乗客減の理由は少子化ではない。もともと本州に比べて人は少ない。では何が問題かというと、高速バスの台頭であった。国鉄時代の1970年代以降、高速道路の開通にともなってバスが台頭し、利益頭の特急列車のライバルとなった。JR九州はその状態で国鉄から事業を継承した。いかにバスと対抗するか。乗ってもらうにはどうしたらいいか。それは特急列車VS. バスだけではなく、普通列車VS. マイカーとの戦いでもあった。
九州の通勤都市圏をみると、福岡は約326万人いるが、北九州は約115万人、熊本は約100万人、長崎は約78万人、大分は約75万人、宮崎は約47万人、鹿児島は約108万人である。比較のために挙げると、東京都は世田谷区だけで約89万人もいる。九州の輸送需要は都市間が多いけれど、総人口が少ない。そしてJR九州の場合、ドル箱になりそうな福岡都市圏と北九州都市圏については、山陽新幹線というライバルがある。こちらはJR西日本の路線である。こうした環境が、JR九州にとって「需要(乗客)は作り出さなくてはいけない」と考える契機になった。
JR九州は需要を掘り起こすために、まず「列車の魅力向上」に取り組んだ。1980年代後半以降、国鉄時代とは一線を引いた奇抜なデザインの車両を投入し話題を集めた。話題集めとは手ぬるい印象だが、「鉄道利用を認知してもらう」ところから始めなくてはいけなかった。そのくらい状況は厳しかった。イメージ戦略と合わせて実弾作戦、割引制度も充実させた。そして2001年に各地で乱発して複雑化した割引きっぷを「2枚きっぷ、4枚きっぷ」に統合した。特急列車の割引きっぷで、簡単に言うと回数券の2枚版、4枚版だ。2枚で往復してもいいし、2人で片道を使ってもいい。「2人で出張に行くときも、せめて片道だけは鉄道を使ってもらいたい」という意図があった。
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