夜行列車はなぜ誕生し、衰退したのか:杉山淳一の時事日想(5/5 ページ)
先週末、地方紙「河北新報」Web版が発信したニュースがネット上を駆け巡った。寝台特急「あけぼの」廃止だ。1970年代に全盛期を迎えた寝台列車は衰退の一途。しかし、夜行列車は新たな時代を迎えたといえる。キーワードは「付加価値に見合った対価」だ。
乗客の価値観に合わせた夜行列車の時代が来る
乗客にとって、「夜を移動する道具」+「寝る道具」としては料金が高すぎる。鉄道会社にとって、「お客さまに旅情を楽しんでいただく列車」としては採算が悪すぎる。これがブルートレインブーム以降の寝台特急の現実だ。
乗客が夜行列車に「旅情」という付加価値を加えていたなら、その対価をいただく必要があった。そこに国鉄は気づかなかった。JRとなってからは商売に目覚め、寝台特急のあり方を是正しようと試みた。いま夜行列車に求められている要素が旅情、つまり娯楽なら、そのための設備と料金を設定しようと。それがJR東日本の「カシオペア」、JR西日本の「トワイライトエクスプレス」、そして究極のモデルがJR九州の「ななつ星in九州」だ。
夜行列車を残すには、夜行列車の需要に見合った設備、サービスが必要となる。「夜間移動する道具」ならば座席のみで良いが、これでは採算面でバスにかなわない。鉄道の旅情はバスにも飛行機にもないメリットだ。鉄道会社だって旅情や夜行列車の楽しみを知っていて、乗客に提供したいと考えている。
夜行列車の「旅情」を楽しむなら、もっと設備を充実させて、それなりの料金を設定する必要がある。移動の道具に徹するか、旅情という娯楽を提供するか。その意味で「あけぼの」は半端な存在になってしまっていた。
JR九州に刺激されて、JR西日本もJR東日本もクルーズトレイン(豪華観光寝台列車)を検討中だという。娯楽施設には娯楽料金をいただく、それがビジネスというものだ。JRグループ各社がその方針を固めた時、夜行列車は今より増えて、さらに楽しくなると私は期待している。
関連記事
- 鉄道ファンは悩ましい存在……鉄道会社がそう感じるワケ
SL、ブルートレイン、鉄道オタク現象など、いくつかの成長期を経て鉄道趣味は安定期に入った。しかしコミックやアニメと違い、鉄道ファンは鉄道会社にとって悩ましい存在だ。その理由は……。 - 「青春18きっぷ」が存続している理由
鉄道ファンでなくても「青春18きっぷ」を利用したことがある人は多いはず。今年で30周年を迎えるこのきっぷ、なぜここまで存続したのだろうか。その理由に迫った。 - なぜ新幹線は飛行機に“勝てた”のか
鉄道の未来は厳しい。人口減で需要が減少するなか、格安航空会社が台頭してきた。かつて経験したことがない競争に対し、鉄道会社はどのような手を打つべきなのか。鉄道事情に詳しい、共同通信の大塚記者と時事日想で連載をしている杉山氏が語り合った。 - なぜ「必要悪」の踏切が存在するのか――ここにも本音と建前が
秩父鉄道の踏切で自転車に乗った小学生が電車と接触して亡くなった。4年前にもこの踏切で小学生が亡くなっている。なぜ事故は防げなかったのか。踏切に関する政策を転換し、「安全な踏切」を開発する必要がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.