交通権ってなに? 画期的な法案が成立、私たちの生活はどうなる:杉山淳一の時事日想(4/6 ページ)
私たちが「自由に移動する権利」が「生存権」とほぼ同格になった。2013年11月13日、衆議院国土交通委員会は、内閣が提出した「交通政策基本法」を賛成多数で可決した。大きく報道されていないが、これは日本の交通政策の概念を大きく変える法律だ。
交通機関は国民の交通権を行使する道具
日本では公共交通機関と国民はどんな関係だったのか。鉄道について考察すると、1872年(明治5年)の鉄道開業から第二次世界大戦までは富国強兵の手段だった。軍の輸送や経済活動のための輸送が優先され、そのために全国に鉄道網が敷設された。もとより「国民が住むところにすべて鉄道がなくてはいけない」という考え方ではなかった。
第二次世界大戦後も、鉄道は経済発展のために建設された。政治家が票集めのために鉄道を誘致した事例も多い。これは一般市民のためではなく、有力者、つまり経済的な理由であった。民間鉄道会社においては企業の利益のために鉄道が建設された。
利益のための鉄道だから、利益が得られなくなったら企業は撤退する。それでは沿線の人々は困ってしまう。鉄道は生活手段であり、利用者保護の観点から、企業の利益追求のためだけに存在してはいけない。そこで明治時代から現在まで、政府はさまざまな形で鉄道事業者に介入した。鉄道路線の乱造を防ぐため、免許制として需給や利害を調整する一方で、経営難の路線の廃止には厳しく対処した。
1999年に鉄道事業法が改正されると、鉄道事業は免許制から許可制に変わった。国による需給調整はなく、参入規制は撤廃された。もうかっている鉄道路線があったら、それと並行してライバルの鉄道事業者が線路を敷き、価格やサービスを競争してもよい。また、路線の廃止についても届け出を出せば1年で廃止できるとした。
実際にはライバルと自由競争するために鉄道事業の届け出が出た例はなく、観光鉄道の開業などがこの法律の恩恵を受けている。むしろこの法律は、鉄道路線の廃止を促進する方向に働いた。路線の廃止届が出されて初めて、国や自治体が廃止後の交通手段の確保にむけて対処することになった。
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