これからの時代に必要なのは? ビームス創造研究所の青野賢一さんに聞く:働くこと、生きること(前編)(3/3 ページ)
セレクトショップ「BEAMS」でクリエイティブディレクターを務める青野賢一さんは、一体どんな仕事をしているのだろうか。BEAMSで働くことになったエピソードのほか、仕事の壁を乗り越える方法などを聞いた。
会社の仕事での“制限”を乗り越える術はDJと同じ
入社後も販売の仕事を続けていたので、アルバイトと正社員との差を感じることはあまりなかった。ただし、仕事の幅はゆるやかに広がってもいった。
「アルバイトを始めて間もなく、『BRUTUS(ブルータス)』の編集のバイトをやっていた同級生が編集者の方やスタイリストさんを連れてくるようになったんです。で、それが発端となって、雑誌への貸出業務も担当するようになりました。その後、1997年からPRの部署に移って、2010年の2月までの間に音楽レーベル(BEAMS RECORDS)のディレクションや2000年につくったCDショップの運営、Webサイトのスーパーバイザーも兼務していました。そして、2010年からいまの部署ですね」
青野さんには、好きなものに囲まれて心地よく生活しているイメージが強い。仕事もまた、そのサイクルの中に溶け込んで見える。
「でも僕、だいたい“なんとなく”なんですよ。あんまり確固たる意志みたいなものがないんです。好きなものや気になるものは当然いろいろありますけど、わりとユルいっていうか、あんまり定まっていないんですよね。ものを集めるにしても、『こういうスタイルを作りたいからこういうものを集める』っていうことじゃなく、『こういうの、いいな』とか『これ、好きだな』という感じで集めただけ。それを見た人から『世界がありますね』って言われるんですけど、“なんとなく”集めた結果にすぎないんです。だから、それを説明するのってすごく難しいんですよね」
では人生についても、「これからこうしたい」というようなものは特にない?
「それがないんですよ(笑)。あんまり考えたことないんですよね。いま45歳なんで、まあ、いい歳じゃないですか。同世代はいろいろ考えているんだろうなと思いますけど、僕はあんまり。自分が楽しめることをやっていきたいなっていう気持ちは漠然とあるんですが、まあ、そういうところぐらいですかね」
視点を変えれば、それはすべてを受け入れているということでは。否定も抵抗もせず、受け入れたうえで、どうするかを考える姿勢を持っているということ。
「例えば会社の仕事としてなにかをやるときに、自分の意志だけじゃどうにもならないことも当然あるじゃないですか。だから、そこでどうするかが大切だと思うんです。DJと一緒ですよね。今日持ってきているレコードはこれだけ。お客さんはこんな感じ。サウンドシステムはこんな感じ。じゃあ、そこでどういうベストの選曲をするかっていう。持ち駒は決まっているわけだから、どう演出するかが重要」
(後編、12月12日掲載予定)
印南敦史(いんなみ・あつし):
1962年東京生まれ。ライター、編集者、コピーライター。人間性を引き出すことに主眼を置いたインタビューを得意分野とし、週刊文春、日刊現代、STORYなどさまざまな媒体において、これまでに500件におよぶインタビュー実積を持つ。また書評家でもあり、「ライフハッカー」への寄稿は高い評価を得ている。
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