住民投票での決着になるのか――宇都宮市のLRT計画:杉山淳一の時事日想(4/6 ページ)
LRT(軽量軌道交通、新型路面電車)導入を推進してきた宇都宮市で、ついに市長が2016年度着工の意向を示した。導入反対の立場を取る「民意なきLRT導入を阻止する会」は住民投票を求めて署名運動を展開している。LRTの賛否、民意はどちらにあるのか。
反クルマだけのLRT計画は反発を招く
筆者は、宇都宮市のLRT構想については妥当だと考えている。道路渋滞を解決する方法として、定時性の高い新交通システムの導入は有効だ。車線を温存するなら地下鉄や高架モノレールなども検討すべきだが、費用が高額になる。路面電車なら低コストだろう。
ただし「バリアフリーな公共交通」と「交通ネットワーク」という点で、LRTが最適とはいえない。バリアフリーは新型低床バスの導入と停留所の改良で対応可能だし、交通ネットワークという意味では、乗り換えがないほうがスムーズだといえる。郊外からバスを中心部に乗り入れる。その代わり定時性確保のためにマイカー規制を実施したほうが良さそうだ。バス専用レーンの整備も有効ではないか。CO2削減という観点ではLRTが最適だが、マイカー規制でも効果はあるだろう。
一方の反対派の意見について。事業の採算性をLRT単体で考えれば、費用対コストは見合わない。しかしLRTは都市のインフラであるから、LRT単体ではなく、交通ネットワーク全体でどれだけのメリットがあるか考慮する必要がある。「LRTによる車線減少で渋滞が増える」という意見は、そもそもLRT導入の趣旨を理解できていない。マイカーやバスを利用する人々をLRTへ転換させるわけで、当然ながらバスやマイカーの利用を減らそうという計画である。
もっとも、それだけにバス会社やマイカー通勤者にとってLRTは認められない。市民の半数が反対という意見は下野新聞の世論調査が根拠だろうから、これは尊重すべきだろう。「乗り換えが面倒だ」「クルマのほうが便利だ」という声は多いはずで、これらの利便性を無視して、さらに約383億円の税を投入するとなれば反発されても仕方ない。
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