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住民投票での決着になるのか――宇都宮市のLRT計画:杉山淳一の時事日想(3/6 ページ)
LRT(軽量軌道交通、新型路面電車)導入を推進してきた宇都宮市で、ついに市長が2016年度着工の意向を示した。導入反対の立場を取る「民意なきLRT導入を阻止する会」は住民投票を求めて署名運動を展開している。LRTの賛否、民意はどちらにあるのか。
自動車交通の破たんとLRT計画
宇都宮市がLRTを投入したい理由の第一は道路交通の破たんだ。特に宇都宮駅東側から鬼怒川を渡る県道64号線「鬼怒通り」が顕著だ。市の中心部では6車線、郊外でも4車線ある道路だが、工業団地まで1時間以上かかる場合もあり、これ以上の拡幅や迂回(うかい)ルートの建設が困難という。
理由の2つ目もクルマに関連する。環境負荷の低減だ。同市は市民のクルマへの依存度が高く、ガソリン消費量も多い。市民1人当たりのガソリン消費量が日本一となった年もあるという。また、1人当たりの運輸旅客部門のCO2排出量は全国で4位。東京都区部や大阪市の2.7倍となっている。
このほか、高齢化社会を迎えてバリアフリーな公共交通が必要、中心市街地の活性化を図るため、郊外から中心部への交通ネットワークの再整備が必要とのことである。各方面から市の中心部へのクルマやバスが集中している。そこで基幹路線として東西方向のLRTを整備し、数カ所に結節点を設けて、郊外からのバスやクルマから乗り換えてもらおうというプランだ。
これに対して、LRTに反対する意見は主に3つ。「事業の採算性に対する見通しが甘く、費用対コストが見合わない」「現在でさえ混雑する道路にLRTを敷設すれば車線が減り、さらに渋滞する。LRT設置の目的を達成できない」「市民の半数が反対している」だ。
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