大使館も共同運営される時代:女神的リーダーシップ(1/4 ページ)
ベルリンには、6棟のモダンな低層ビルからなるフェレスフスと呼ばれる複合ビルがあり、北欧5カ国の大使館が入居している。そこでは「女神的」理念の極みともいえる手法で外交が展開されているのだ。
集中連載「女神的リーダーシップ」について
本連載は、ジョン・ガーズマ+マイケル・ダントニオ著、書籍『女神的リーダーシップ』(プレジデント社)から一部抜粋、編集しています。
「世界を変えるのは、女性と“女性のように考える”男性である!」
ギリシア神話の女神アテナは、文化文明と芸術工芸の守護神であり、戦いの神としての顔も持つ、武力ではなく知恵によって人々に勝利をもたらす。
世界13カ国、6万4000人を対象にした調査から明らかになった、理想のリーダー像とは? 世界で成功している起業家、リーダーが示す特徴の多くは、思想や宗教、文化に関係なく「誠実」「利他的」「共感力がある」「表現力豊か」「忍耐強い」など、一般に「女性的」といわれる資質であることが浮彫となった。
ヒラリー・クリントン前国務長官が「賛辞」を送り、『ワーク・シフト』の著者、リンダ・グラットン教授が絶賛した話題の書、ついに翻訳化!
大使館も共同運営される時代
ベルリナー・ザイルファブリークのデービッド・コーラー社長は、全従業員から意見や提案ばかりか苦言まで出してもらっている。これによって批判の矢面に立たされる場合もあるが、全社の知恵を結集することによって多くの実を得ている。リサーチゲートのマディシュとフレンドシュアランスのクンデは、情報や経験の共有をとおして美徳をなす事業を創造した。欧州にこのような起業家精神がみなぎっている事実は、「欧州では税制のせいで創造性の芽がほとんど摘まれている」と考える人々にとって、驚きかもしれない。
時代遅れの官僚制がイノベーションを妨げているというよくある批判は真理の一面を衝いてはいる。福祉の充実した国では、社会が硬直して機能不全に陥りかねない。しかし政府内部にも、非常に疑い深い人にさえ将来への希望を抱かせるような、協力、長期的な発想、イノベーションが見られる。
ベルリンには、フェレスフス(デンマーク語で「みんなの家」の意)と呼ばれる複合ビルがあり、そこでは「女神的」理念の極みともいえる手法で外交が展開されている。6棟のモダンな低層ビルからなるフェレスフスには、5カ国(フィンランド、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド)の大使館が入居し、スペースや補助スタッフを共有している。大使館員は、共通の理解や目的のために相互に自由に行き来している。
通りを挟んだ向かいの建物はかつてシリア大使館だったが、現在は落書きだらけで有刺鉄線に囲まれ、フェレスフスとは対照的に見る影もない。
フェレスフスに入居する北欧5カ国は、当然ながら歴史や伝統も共通点が多い。社会の流動性、経済上の機会、社会全般における女性の地位などの面でも世界の上位につけている。大使館の共同運営によってコストを下げ、政府間で合理的な関係を築いている。わたしたちの取材の窓口となったフィンランド大使館のレオ・リスキは、「フェレスフスがあるおかげで、各国が経済と社会の両面で、格段に足並みを揃えやすくなりました」と語った。「ビジネスも遥かに進めやすくなりました。互いに信頼が生まれますから」。これは、物を売る、旅行する、不動産を購入する、仕事を求めて移民するなど、さまざまな局面に当てはまる。
大使館を共同運営するアイデアが持ち上がったのは、ベルリンの壁が崩壊して、ドイツの首都がボンからベルリンに移った後である。フェレスフスの建築にあたっては、ガラスを多用したりオープンスペースをいくつも設けたりするなど、透明性を重視したほか、一体感も表現した。5カ国の利害の一致を象徴するために、緑色がかったベルト状の銅板を地上15メートルの高さに張り巡らせ、建物どうしをつないでいる。これは通りからも見え、「ここは相互支援によって成り立つ安全な場所なのだ」という印象を訪問者に与える。
関連記事
- 「キュレーションで効率的に情報収集」の落とし穴――池上彰×吉岡綾乃(前編)
9月2日にリニューアルしたBusiness Media 誠。記念企画として、スペシャルインタビューを掲載していきます。最初に登場していただくのは、ジャーナリストの池上彰さん。編集長の吉岡綾乃と、ビジネスパーソンはどのように情報収集すべきかについて話し合いました。 - LINE、NAVERまとめはなぜ強いのか?――LINE株式会社 森川亮社長8000字インタビュー
人気サービス「NAVERまとめ」や、世界で2億3000万ユーザーが利用する「LINE」を急成長させているLINE株式会社の森川社長。矢継ぎ早にアプリやサービスをリリースする開発力や、「計画を立てない」「事業計画を出さない」といった独特の経営方針について、じっくり聞いてきました。 - 最初は売れなかった? これまで語られなかった「じゃがりこ」の裏話
「じゃがりこ」といえば、カリカリ・サクサクした独特の食感が特徴だ。カルビーが1995年に発売して以来、ロングセラー商品となっているが、開発秘話はあまり知られていない。開発に携わった担当者が多くを語らなかったからだが、18年経った今、当時の裏話を打ち明けてくれた。 - オバマ大統領が、本当に"change"したもの――Change.org日本代表 ハリス鈴木絵美さん
世界最大の署名サイト、Change.org日本版の代表・ハリス鈴木絵美さんは元マッキンゼーのコンサルタント。政治に興味がなかったという彼女はなぜオバマ大統領の選挙スタッフになり、さらに市民活動を仕事にしたのか? 日本人から見ると驚きの、米国の選挙事情を聞いた。 - メガネのネット通販で業界全部をひっくり返してみせる――Oh My Glasses、清川忠康社長
送料無料、返品無料、購入前に5本のフレームを自宅で試着可能というサービスをひっさげ、オンライン通販専業でメガネ業界に新風を巻き起こしつつある「Oh My Glasses」。創業者の目線の先にあるものとは?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.