大使館も共同運営される時代:女神的リーダーシップ(2/4 ページ)
ベルリンには、6棟のモダンな低層ビルからなるフェレスフスと呼ばれる複合ビルがあり、北欧5カ国の大使館が入居している。そこでは「女神的」理念の極みともいえる手法で外交が展開されているのだ。
大使館の共同運営
リスキは、5カ国をフェレスフスでの大使館共同運営へと導いた理由を説明しようとして、第二次世界大戦の教訓と冷戦の経験を引き合いに出した。当時、紛争や孤立がいかに大きな犠牲を生むか、誰の目にも明らかだった。実弾が飛び交う戦争と冷戦の両方が過去のものになると、新しい仕組みが生まれた。「危機の時代には、誰もがともすればわが身のことしか考えません」とリスキ。だが平和の訪れを確信すると、いろいろなことを考えられるようになる。この結果、EU(欧州連合)が誕生して、いくつもの短所を持ちながらも、相互理解と安全保障の増進に寄与してきた。
「ドイツは、欧州域内で受容されないかぎり何もできないと心得ていたのです」
このように、欧州大陸の各国の政府はおおむね、従来からEUに好意的なのである。フェレスフスが象徴する北欧諸国の結束も、これと同じ意味合いを持つ。リスキは「結束したほうが安全だと分かっていますから」と言い添えた。
北欧諸国にとっては、単独で動くよりもフェレスフスを介したほうが、社会との交流や外交活動が著しく効率化する。単独で大使館を構えると、10人ほどの職員を置いても訪問者はまばらで館内はいつも静まり返った状態だろう。ところが5カ国が集まると、年間に100回もの公開イベントを開催でき、フェレスフスを活動拠点とした影響力増大も可能になる。「コスト削減効果はさておいても、影響力は強まりました」。
フェレスフスは、「各国がバラバラに行動したのでは限界がある」「北欧諸国には共通の利害がある」という認識のもとで運営され、公共の利益に貢献している。レオ・リスキの見たところ、フェレスフスに参画する5カ国は、国としてのアイデンティティや権利の一部を失ったが、得たものはそれより遥かに大きかった。同じことは、アイルランド、キプロス、フィンランド、スペインほか、数多くの国々の経済と社会の統合を図る世界最大の国際組織、EUにも当てはまる。EUは金融政策を筆頭にさまざまな難題を抱えてはいるが、平和や貿易を促進し、欧州大陸で暮らす人々の結びつきを強めた。
EUの権能は限られているが、環境問題については見解が一致しており、河川、湖沼、海洋を守るうえで役割を拡大してきている。欧州委員会のマリア・ダマナキ海事・漁業担当委員は先ごろ、海洋に散らばるプラスチック廃棄物を回収した漁業従事者に、重量に応じた報酬を支払う案を提示して、物議を醸した。この案では、年間一定量を回収したら無条件に報酬を払うとしていた以前の仕組みと比べて、当事者の取り分が減るのである。
EUの海洋関連の施策にはこのほか、採掘作業の準備として海底の地図を作成する、魚介類の激減に対処するために養殖場を設けるといったものがある。こうした取り組みの背景には、持続可能性への一般の人々の関心と懸念がある。これらの国際的取り組みの指揮をとるマリア・ダマナキは、ギリシアのクレタ島で生まれ育った。何千年も前から漁業と深く関わってきた、四方を海に囲まれた地である。彼女はブリュッセルへ取材に訪れたわたしたちに、「来る日も来る日も海を見ていると、海について考えずにはいられなくなるのです」と語った。
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