インドと中国の「領土問題」に巻き込まれる日本:伊吹太歩の時事日想(2/4 ページ)
スイスで開催されたダボス会議で中国をけん制し世界のメディアをざわつかせ、その足でインドを訪問した安倍首相。単純な対中包囲網へのコネクション作りとはいえないようだ。
インドと中国、領土をめぐる戦いの歴史
実は安倍首相、インド訪問で図らずも中国を挑発する動きに巻き込まれた。その動きは日本では大々的には報じられていないが、中国にとってはダボスにおける安倍首相の発言なんかよりも由々しき問題であり、頭を悩ませるものだったはずだ。
ただ実態は、安倍首相がインドから利用されただけの感もある。とにかく、安倍訪問でのインド政府による動きの意味を知る前に、インドと中国の関係性を簡単に説明する必要がある。
インドと中国は1962年に戦火を交えている。国境画定を巡って、いわゆる中印国境紛争が勃発したのだ。当時問題になった国境線は、現在のインド北東部のアルナチャル・プラデッシュ州。結果的にインドが敗れる結果となったが、その後から今に至るまで、両国の間で静かな軍事的小競り合いが続いている。
中国はこれまで同地域を南チベットと位置付けて、自国の領土と主張している。一方でインドは、中国を牽制する意味で2013年7月に、アルナチャル・プラデッシュ州を含む中国との国境(実質的な国境線である「実行支配線」)に5万人の兵を追加増派している。逆に中国の人民解放軍はその翌月、同州に侵入し、4日にわたり野営を張ったことが明らかになった。
中国はそれ以外にも、インド北部のジャム・カシミール州の北東に位置するラダックの一部も自国領であるとして挑発を続ける。世界で経済的に発言力が増し、さらに軍備拡大を続ける中国は、これまで数多くの領土侵犯を行い、最近では2013年4月にラダックの国境線付近まで部隊を進めた。インド政府は、中国に対し部隊を撤収させるよう警告。そして2013年10月、インドと中国は国境防衛協力協定でお互いの挑発を自制すると合意しているが、これは絵に描いた餅だと言われている。現に、2014年に入っても2週間に1度は中国の部隊が1時間ほど領土に侵入していることが判明している。
関連記事
- 日本人も要注意、集団レイプ判決から見るインドの闇
最近、インドで発生する集団暴行事件のニュースを日本メディアも取り上げるようになった。事件の背景を追ってみると、根強く残る女性差別が浮き彫りになる。 - 安倍首相のアフリカ訪問に、なぜ中国はイラッとしているのか
安倍首相がアフリカ諸国を訪問したことで、中国がイライラしている。中国外務省の副報道局長が、定例会見で日本のアフリカ外交について問われ……。 - 米国は「ジャガイモ外交」!? 各国首脳の「贈り物」が面白い
米国務長官がロシアの外相にお土産として持ってきたのは2つのアイダホポテト。安倍首相がオバマ大統領にねだられたのはパター。国家間のプレゼントにはさまざまな思惑が入り交じる。 - 北方領土問題を抱える日本とロシアが仲良くなるカギ
2プラス2会談が開催された日本とロシア。北方領土問題など懸案は多いが、共通の利害を上手く使えばこうした問題も解決に向かうかもしれない。今、戦後初めてと言っていいほどの大きなチャンスが訪れている。 - マンデラ追悼式で浮き彫りになる現代の人種差別
アパルトヘイトと戦ったネルソン・マンデラ元大統領の追悼式典では、さまざまな話題が提供された。いくつかの報道では、いまなお残る人種差別の現実が見え隠れする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.