インドと中国の「領土問題」に巻き込まれる日本:伊吹太歩の時事日想(3/4 ページ)
スイスで開催されたダボス会議で中国をけん制し世界のメディアをざわつかせ、その足でインドを訪問した安倍首相。単純な対中包囲網へのコネクション作りとはいえないようだ。
なぜインドが対中戦略で日本に近づくのか?
インド政府によれば、中国政府はこうした地域にいる過激派に対して武器を提供し、同地域を混乱させようとしている。
こうした背景によって中印の間では緊張関係が続いているわけだが、今回の安倍首相のインド訪問とどんな関係があるのか。実は、この中印の領土問題に日本が関与していく可能性がインド紙で報じられたのだ。インドの有力紙であるタイムズ・オブ・インディア紙はこう報じている。
「中国が進出するのを恐れる地域に日本がさっそうと前進しようとしている。インドと日本が2国間関係を強化する中、インドは日本に対して、中国が通常立ち入ることができない地域への投資を行い、陸上のインフラ整備を行うよう勧誘した」
この「中国が立ち入り禁止である地域」というのは、国境紛争の現場であるアルナチャル・プラデッシュ州のことだ。インドは、日本企業に同地域での道路整備や農業支援、林業活動、さらに水道や下水の整備を支援してほしいと要請した。
同紙はこう続ける。「インドにとって、この地でのインフラ工事を求めることは、大きな政治的発言である」。それは間違いないだろう。2013年11月にアルナチャル・プラデッシュ州を訪問したプラナブ・ムカジー大統領は、同地域をインドにとって「肝要で重要な場所」と発言し、インド国内との行き来を頻繁にするため、また中国を牽制するために、道路整備など早急なインフラ整備が必要だと述べている。
中印領土問題の「現場」であるアルナチャル・プラデッシュ州に、日本企業が進出し、インフラ整備を担う。つまり、このインドと中国の歴史的な紛争地域に、民間企業が工事を行うとはいえ、日本政府が開発事業に協力する可能性が出てきた――この記事を読んだインド人は、日本が中国に対する自分たちの主張を支持してくれたと感じるはずだ(実は2006年にインドは日本に同地域で水力発電建設の協力を呼びかけたが、その後進展は聞かない)。
関連記事
- 日本人も要注意、集団レイプ判決から見るインドの闇
最近、インドで発生する集団暴行事件のニュースを日本メディアも取り上げるようになった。事件の背景を追ってみると、根強く残る女性差別が浮き彫りになる。 - 安倍首相のアフリカ訪問に、なぜ中国はイラッとしているのか
安倍首相がアフリカ諸国を訪問したことで、中国がイライラしている。中国外務省の副報道局長が、定例会見で日本のアフリカ外交について問われ……。 - 米国は「ジャガイモ外交」!? 各国首脳の「贈り物」が面白い
米国務長官がロシアの外相にお土産として持ってきたのは2つのアイダホポテト。安倍首相がオバマ大統領にねだられたのはパター。国家間のプレゼントにはさまざまな思惑が入り交じる。 - 北方領土問題を抱える日本とロシアが仲良くなるカギ
2プラス2会談が開催された日本とロシア。北方領土問題など懸案は多いが、共通の利害を上手く使えばこうした問題も解決に向かうかもしれない。今、戦後初めてと言っていいほどの大きなチャンスが訪れている。 - マンデラ追悼式で浮き彫りになる現代の人種差別
アパルトヘイトと戦ったネルソン・マンデラ元大統領の追悼式典では、さまざまな話題が提供された。いくつかの報道では、いまなお残る人種差別の現実が見え隠れする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.