全国展開する「はなまるうどん」や「丸亀製麺」が福岡で苦戦するワケ:INSIGHT NOW!(2/2 ページ)
全国展開するうどんチェーン「はなまるうどん」や「丸亀製麺」が、福岡では業績不振に陥っているという。その背景には福岡独特のうどんに対する文化がある。
その1:お母ちゃんの本領発揮説
こうしたうどん屋に来る客は大きく2つに分けられる。まずは孤独なおじさんだ。ドライバーや営業マンで、いつも無口。こんな客にはうどんをドン! と置いて、あとは“ほい、ほい”と食べさせれば、お互いハッピー。あの高いテンションで圧倒されると、かえって癒されるかもしれない。
もう1つは、乳幼児を連れた母親だ。子供がはしゃいで食べ物をこぼし、母親が怒鳴り散らして、周りの客までイライラする。そんなときに華麗に対応できるのも、やはりお母ちゃんを経験してきたおばちゃんなのだ。さっとテーブルを拭き、子どもを座敷に移動させてとっとと片づける。こういう所作にベテランぶりを感じる。
要はうどん屋のフロアは、母親の経験をそのまま発揮できる舞台なのだ。昭和の家にいたような“母ちゃん”が店内にいて、その存在感に客が惚れる。うどん屋はそんな究極の舞台を作っているのだ。
その2:高い回転率から来る“うどんハイ”説
短期目標の達成には、女性の方が適しているとよく言われるが、おばちゃんは忙しければ忙しいほどアドレナリンが出るのか、仕事のスピードが上がっていく。うどん屋は原価が安く、回転率が非常に高い。特に牧のうどんは店舗のとなりに製麺所を併設しており、常に麺がゆで続けている。つまり常に目の前にいつもアツアツの在庫がある状態なのだ。
それを秒単位でさばくおばちゃんを見ていると、餅つきをするときに餅を臼でひっくり返す人を思い出す。この仕事は、おばちゃんしかできない。ずっとゾーンに入っている。ある意味“うどんハイ”なのである。
その3:合理的なシフト制
資さんうどん新池店のオープニングスタッフ募集の内容を見てみると、24時間営業で6つのシフトに分かれている。福岡のパート時給より若干高めの設定だが、特別高いわけではない。それよりも細かく分けられたシフト制に魅力がある。
資さんうどん新池店のシフトと時給 | |
---|---|
時間 | 時給 |
7:00〜11:00 | 765円〜 |
11:00〜15:00 | 785円〜 |
15:00〜19:00 | 765円〜 |
19:00〜23:00 | 798円〜×3h+998円×1h |
23:00〜3:00 | 865円〜 |
3:00〜7:00 | 765円〜×2h+956円×2h |
うどん屋さんで働くおばちゃんたちは子育てがひと段落した世代で、年齢は比較的高い。こういう世代は働こうと思ったときにはあまり仕事がなく、家事と両立するべく「少しだけ働こうか」「深夜働こうか」と誰しもが思う。家事の延長線上にあるような仕事である上に、一般的には優遇されることのないおばちゃんたちの意思を汲み取ったようなシフト制だ。そのため、豊富な労働力を用意でき、スターのような案内係が生まれる。
次々に入店する客。もうもうとする湯気。フロアに響き渡る案内係のおばちゃんの声。まるで我が子をあしらうようにメニューをさばくフロアのおばちゃんたち。両店舗とも忙しい時間帯の緊迫感はすさまじい。おばちゃんに文句を言えない空気を感じる。
これは昭和のお母ちゃんたちが忙しい夕暮れの台所で出していた空気と同じだ。それがかえって癒されるのである。お客様扱いをされた時点で、こちらの熱気は冷めていく。博多で“おしゃれ”なうどん屋が出店しては消えていく理由は、博多の人間にとって、うどんはこうした文化を持つソウルフードであるからだ。(中村修治)
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