ぜんぶ雪のせい……ではなかった? 東横線追突事故:杉山淳一の時事日想(5/6 ページ)
2014年2月15日。東急東横線元住吉駅で電車の追突事故が起きた。大雪の惨事、死者がなくて不幸中の幸いだ。報道によると、非常ブレーキが作動したにもかかわらず、電車が停まらなかったという。でも、それって……。
原因は「耐雪ブレーキ」の運用方法ではないか
曽根先生が指摘するように「耐雪ブレーキを使っていたにもかかわらず事故が起きていたとすれば」という、この部分が今回の事故の焦点となる。なぜなら、雪が降ったから「自動的に起動する装置」ではないからだ。運転士のスイッチ操作で起動する。先に挙げた名古屋鉄道の例では、運転士が耐雪ブレーキのスイッチを入れていなかった。
耐雪ブレーキがなぜ自動化されないかというと、降雪は場所によって状況の変化が大きく、現場、つまり運転士の判断が必要だからである。耐雪ブレーキは「弱くブレーキをかけつづける状態」だから、乾いた時に使うとブレーキや車輪の摩耗が大きくなる。速度を上げるときにモーターの負担があり、電力を消費する。できれば使いたくない。必要なときだけ使いたいという機能だ。
そして「必要なとき」を見誤ると、耐雪ブレーキを作動させても、その前に車輪とブレーキパッドに雪が詰まって氷結してしまい、耐雪ブレーキは機能しない。名古屋鉄道の場合は、事故をきっかけに耐雪ブレーキの使用基準を変えた。以前は「雪でレール上面が隠れた場合」だった。事故以降は「雪で線路が隠れた場合」としたそうだ。
ただし、運転士がスイッチを操作するとしても、運転士だけに非があるとは限らない。運転士は何かあるたびに無線で運行指令(担当者)に指示を仰ぐ。運行指令も運転士同士の情報を共有し、必要な指示を与える。耐雪ブレーキの使用も、運転士が気づく前に運行指令が早めに指示すればよかったかもしれない。また、運行指令担当者も、耐雪ブレーキの使用について基準通りに運用していたとすれば、その責を問いにくい。内規そのものを見直す必要があるだろう。
先に書いたように、その日、東急東横線では10件のオーバーランが発生していた。この事実を軽視していなかったのだろうか。1日10件で、しかも異なる運転士の電車だとすると、それぞれの運転士の技量とは考えにくい。それぞれが耐雪ブレーキのスイッチを入れていなかったか、入れていたとしてもタイミングが遅かったか。耐雪ブレーキの使用は運転士に任されていたか、運行指令が指示していたか否か。今後の事故調査はこれも焦点になるに違いない。
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