佐村河内氏を叩くメディアは、ゴーストライターだらけだという矛盾:伊吹太歩の時事日想(1/3 ページ)
「現代のベートーベン」と呼ばれた作曲家によるペテン師騒動を海外メディアはどのように報じているのか? 記事に寄せられる読者のコメントも読んでみると興味深い。
著者プロフィール:伊吹太歩
出版社勤務後、世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材、夕刊紙を中心に週刊誌「週刊現代」「週刊ポスト」「アサヒ芸能」などで活躍するライター。翻訳・編集にも携わる。世界を旅して現地人との親睦を深めた経験から、世界的なニュースで生の声を直接拾いながら読者に伝えることを信条としている。
「現代のベートーベン」と呼ばれた作曲家――佐村河内守氏が、実はとんでもないペテン師だったと大きな話題になったのは2014年2月初めのこと。桐朋学園大学の非常勤講師である新垣隆氏が記者会見を開き、「自分がゴーストライターだった」と暴露した。
だが、新垣氏がほとんどの楽曲を作っていたとされる「ゴーストライター」問題については、そこまで大きな問題のようには思えない。彼が一方的に非難されるのは、少しかわいそうな気もする。というのも、ゴーストライターという存在は、決して珍しくないからだ。
メディアには、あちこちにゴーストライターがいる。例えば、書籍の世界。偉業を成し遂げたスポーツ選手やビジネスパーソンなどは、文章を上手に書けなかったり、本業が忙しく時間がなかったりという人も多い。だが、需要は高くて売り上げが見込めるため、出版社はゴーストライターを使って本を出す。そして、本を宣伝するためにメディアに登場する著名人は、あたかも自分が書いたかのように振る舞っている。
これは一般的なビジネス形態だと言える。ただし、米国などでは、こういう形のゴーストライターが「共著者」として本の作者に名を連ねることも多いし、そうでなければ、あとがきなどで紹介される。裏稼業ではなく、1つの仕事として認められている。
では、今回の佐村河内氏の騒動、海外メディアはどのように捉えているのか。佐村河内氏の楽曲は、「広島」や「東日本大震災」といった海外でも多く取り上げられるキーワードと関連しているため、そこそこ話題になっていた。また、テレビゲーム向けに楽曲を提供したことも取り上げられた。
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