佐村河内氏を叩くメディアは、ゴーストライターだらけだという矛盾:伊吹太歩の時事日想(2/3 ページ)
「現代のベートーベン」と呼ばれた作曲家によるペテン師騒動を海外メディアはどのように報じているのか? 記事に寄せられる読者のコメントも読んでみると興味深い。
ペテン師騒ぎが日本人全体のイメージダウンに
かつて、佐村河内氏を取材して、彼を「デジタル時代のベートーベン」と世界に紹介した米TIME誌。2001年当時、同誌の米国人記者は、彼を疑わなかった。人々を芸術で感動させている「全聾(ろう)」の人物に会って、そんな疑いを持つことはなかなかできないだろう。
今回、TIME(電子版)はどう報じているのか。記事タイトルは「聾者の作曲家は実は聾者でないことを認め、自分の曲を書いていなかった(参照リンク)」。ソチ冬季五輪開幕前の2014年2月6日付けの記事では、フィギュアスケートの高橋大輔選手が彼の曲に合わせてスケートを滑るYouTubeの動画も埋め込まれている。だが、記事は日本での騒動について簡単に経緯を紹介しただけで、自分たちが彼の世界における知名度アップに貢献したことには触れていない。
それより興味深いのは、TIMEの記事に対する読者のコメントだ。そこには「日本――世界最強の模倣とペテン師の国!」というものがあった。あらためて気付かされるのは、インターネットの普及により、日本国内の騒ぎであっても世界からの日本に対する印象に影響を与えることだ。佐村河内氏のペテン師騒ぎは、日本人のイメージダウンに一役買っている。
ロイター通信は、「『日本のベートーベン』は、また耳が聞こえるようになったと言う」とのタイトルで紹介している。そして「観測筋らによると、佐村河内の人気の一端には、日本社会で急速に高齢化が進む中、クラシック音楽に『顔の見える人物』を据え、縮小するマーケットシェアにしがみつく思惑があった」と分析している。
こちらの記事のコメント欄には、「だったら新垣隆は自分の名前で作曲し始めたらいいんじゃないの?」というものもある。それができないからゴーストライターだったのではないか、という皮肉が込められている。
英ガーディアン紙(電子版)は、AFP通信の記事を使って「『日本のベートーベン』と呼ばれる佐村河内が他の作曲家にカネを払って作曲させていた(参照リンク)」というタイトルの記事を掲載している。内容に特筆すべき点はないが、記事で高橋大輔選手と紹介している写真が、別のフィギュア選手である町田樹選手の写真になっていた。海外のメディアによくあることだが、完全な人違いである。
この記事に対して寄せられている読者のコメントは、佐村河内氏に同情的なものが多い。例えば、「その楽曲が好きなら、誰が書いたのか気にならないでしょ」「これはコラボレーションと言うのではないのか?」といったもの。ほかには、かつてスタジオアルバムに替え玉のシンガーを使い、ライブは口パクだったとして大騒ぎになった米国のグラミー賞音楽ユニット「ミリ・バニリ(Milli Vanilli)」に触れて、「みんなまだミリ・バニリの曲で踊ってるよ」という皮肉もあった。
確かに、見方によってはコラボレーションともいえる。香港のサウスチャイナ・モーニングポスト紙(電子版)は、ゴーストライターであることを暴露した新垣氏を「ブレイン」と書いている。佐村河内氏も、対価の支払いをしているから「ブレインを使った」と言えなくはない。
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