ウクライナ政変で登場した「ヒロイン」から日本が学べること:伊吹太歩の時事日想(2/3 ページ)
炎上するウクライナの首都で、「独裁から自由になりたい」と訴えかけるウクライナの美女。このようなプロパガンダ的なPR作戦が行われるのは外国の常識である。
「独裁から自由になりたい」
ユリアは、訛りのある英語で、こんなふうに訴えかける。「私は(首都)キエフで生まれ育ったウクライナ人です。私は街の中心部にあるマイダン(キエフの中心にある独立広場のことで、今回の抗議デモの舞台)にいます。なぜ国中の大勢が街頭に集まっているのかを知ってもらいたいのです。理由はたった1つです。独裁から自由になりたいのです。自分たちのためだけに動く政治家たちから自由になりたいのです。彼らは自分たちのカネや家、権力を守るために、いつでも人々を銃撃し、暴行し、負傷させる準備ができているのです」
ビデオは、悲しげな音楽とともに、治安部隊などに暴行されるデモ隊の写真や、夜もマイダンを占拠するデモ隊、それを取り囲む治安部隊など、今回の騒動を感傷的に描写している。
近年、民主化を求める民衆のデモによる混乱では、多くの場合、ユリアのような「シンボル」となる人物が登場する傾向にある。「アラブの春」が起きたエジプトではグーグルの社員として反体制運動を行ったワエル・ゴニム、イランの大統領選をめぐる2009年の騒乱ではバシジと呼ばれる民兵組織に銃殺された女性ナダ、最近ではベネズエラで反政府デモを率いて逮捕された野党党首のレオポルド・ロペスなどだ。
こうしたシンボルは、メディアまたは欧米政府が関わっている場合が多い。ユリアについても、EUや米国から、裏で何らかの動きがあるのは想像に難くない。特に対立構造が分かりやすい揉めごとで、プロパガンダ的なPR(広報)作戦が行われるのは外国の常識である。
内戦が続くシリアでも、シリア政府と反体制派が虐殺の写真やビデオを公表するプロパガンダ合戦を続けている。ユリアの今回の訴えをめぐっても、戦争請負PR会社のような人たちが動いている可能性は高い。
それゆえに、ネット上では、特に親ロシアのユーザーたちから、このビデオは「完全なプロパガンダだ」「完全なウソだ」とする否定的な声も上がっている。確かに若く美しい女性がカメラ映えする化粧をしてビデオの前で優しく語りかけるのには違和感がある。その映像の柔らかさとは裏腹に、内容はウクライナ政界に対する厳しい政治的メッセージだ。
日本政府のロビー活動、費用対効果は疑問
ちょっと話が逸れるが、日本政府も外交において主張すべきことがあるのなら、はっきりとこういう形でPR活動をすべきではないか。もちろん日本は、こうした外交的なPR活動を行っていないわけではない。
ここ最近も慰安婦問題を追及する米国のマイク・ホンダ議員が、ジョン・ケリー国務長官に対して、日本政府関係者との会談で慰安婦問題を取り上げるよう要求していた。こうした動きは米議会で以前から続いている。
そこで日本政府は議会での慰安婦問題に対処するために、また米国内の対日本感情を観察する目的で、ロビー企業のホーガン・ロベルスに2012年9月から2013年8月までの間に少なくとも52万3000ドル(約5300万円)を、別のロビー企業のヘクター・スペンサー・アンド・アソシエイツに19万5000ドル(約1980万円)を支払っていた。
ただ残念ながら成果が見えてこない。もっとはっきりと分かる形で成果の一端でも見せてもらいたいものだ。もちろん現在、水面下でPR活動が進められていると思いたい。
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