経済低迷が続くインド――救世主は「トイレ」!?:伊吹太歩の時事日想(1/4 ページ)
今やGDPでは世界で10本の指に入るまでに成長したインド。華々しい経済成長の裏に、深刻な衛生問題があるのはご存じだろうか。この“トイレ問題”から子どもたちを救うべく、ユニセフが国際機関らしからぬポップな施策を展開している。
著者プロフィール:伊吹太歩
出版社勤務後、世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材、夕刊紙を中心に週刊誌「週刊現代」「週刊ポスト」「アサヒ芸能」などで活躍するライター。翻訳・編集にも携わる。世界を旅して現地人との親睦を深めた経験から、世界的なニュースで生の声を直接拾いながら読者に伝えることを信条としている。
今から数年前のこと、欧米企業の幹部で中国支部を取り仕切る友人と、シンガポールでビールを飲み交わしていたら、彼が家族とインドを訪れた話になった。彼は妻と2人の子どもを連れてインド支部の幹部宅をバケーションで訪問していたという。
最も盛り上がったのはトイレの話だ。「一番困ったのはトイレ。インドはトイレがマジできつい。友人宅やそれなりのホテルならまだしも、どこかに外出してトイレに行きたくなったら悲劇だよ。あいつ(インド支部の幹部)は、建物のトイレには入っちゃいけないと言うんだ。病気になるから、トイレに行きたくなったら外でしたほうが安心だって(笑)」
そんな著者も、インド各地で取材をするなか、子どもが道ばたで排泄している場面に何度も遭遇したことがあるし、ムンバイのスラムでは、オヤジがこちらに尻を向けて排便しているのを目撃したこともある。このユルさがインドらしいと笑い話のネタにしてきたが、衛生面を考えれば、決して笑って済む話ではない。
インドは世界的に見ても、排泄の衛生問題がかなり深刻な国の1つだ。インドは世界で最も多くの人が屋外で排便をしている国であり、いわゆる“野グソ”人口はなんと6億2000万人以上にのぼる。つまり、全国民の半分はトイレで排便をしない。しかも、親のうち44%は子どもの糞便をゴミ箱ではなく、外に捨てているという。屋外に放置される排便の総量は、1日あたり6500万キロ(!)に達すると試算されている。
さらに驚くのが、これでもここ10年ほどで状況がかなり改善されたという事実だ。10年前のことは考えたくもないが、この改善も都市部に限った話。地方に住む約7割の人々はトイレにアクセスできない状況にあるという。
こうした環境から子どもが受ける被害が深刻で、インド国内で大きな問題になっているのはご存じだろうか。
関連記事
- くう、ねる、そして――自然写真家、糞土師 伊沢正名さん
今回のインタビューのテーマは「真面目な排せつ物の話」。食事中の方、排せつについての話題に抵抗がある方は決してこの続きを読まないでいただきたい。了承してくださった方だけ、さあ本文へ。 - なぜ「楽天」が世界中で叩かれているのか?
英語の社内公用語化など、グローバル企業への成長を目指して動き出した楽天。だが、本当に必要なのは「国際企業ごっこ」ではない。国際社会に対する社会的な貢献が求められる。 - 市販ペットボトル飲料水のうち、約半数は「ただ」の水道水
米国の消費者団体が調査したところによると、市販しているペットボトル飲料水のうち、約半数のブランドが水道水だという。ペットボトル飲料水を購入するのはカネの無駄か――そんな議論が世界各国で巻き起こっている。 - インドと中国の「領土問題」に巻き込まれる日本
スイスで開催されたダボス会議で中国をけん制し世界のメディアをざわつかせ、その足でインドを訪問した安倍首相。単純な対中包囲網へのコネクション作りとはいえないようだ。 - 日本人も要注意、集団レイプ判決から見るインドの闇
最近、インドで発生する集団暴行事件のニュースを日本メディアも取り上げるようになった。事件の背景を追ってみると、根強く残る女性差別が浮き彫りになる。 - 連載:伊吹太歩の時事日想 一覧
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.