経済低迷が続くインド――救世主は「トイレ」!?:伊吹太歩の時事日想(3/4 ページ)
今やGDPでは世界で10本の指に入るまでに成長したインド。華々しい経済成長の裏に、深刻な衛生問題があるのはご存じだろうか。この“トイレ問題”から子どもたちを救うべく、ユニセフが国際機関らしからぬポップな施策を展開している。
ユニセフが仕掛ける“ポップ”な啓発キャンペーン
日本人にとってはあり得ない、インドのこんな状況を改善すべく、ユニセフは2013年末に「Poo2Loo」(Poo to the Loo=トイレで排便しよう)という大々的なキャンペーンを開始した。しかも子どもに向けたこのキャンペーンは、国連機関らしからぬポップさで世界の人たちにアピールしている。公式ページに行くと、人々に「トイレで排便」させるために、ユニセフがあの手この手を使ってインタラクティブに問題提起しようとしている姿が分かって興味深い。
まずはビデオだ。このキャンペーンでは、さまざまな啓発ビデオが制作されている。とぐろを巻いた排便の着ぐるみがインド人の若者を襲うものや、排便から逃げようとするインド人を描いたアニメーションなどだ。ボリウッド系の曲を使ったアニメの1つ『Poo Party』(プー・パーティー)では、こんな歌詞が歌われる。「朝起きて最初に見るのは何だ……俺をじっと見つめるクソにはもううんざりだ……俺は目を閉じてそこを離れる……だがどこへ行っても逃れられない……」
さらには、外で排泄が行われている地域を報告できるインタラクティブな地図もあれば(関連リンク)、トイレットペーパーのロールを獲得していく非常に単純なゲーム(関連リンク)もある。ゲームは単純だが意外にハマる作りになっていて、著者もムキになって30分ほど遊んでしまった。ゲームの中にはもちろん、さまざまな野グソについてのデータが表示される。
このキャンペーンは欧米メディアにも取り上げられて話題になっている。だが一方で、特に裕福なインド人からしてみれば、これは恥以外の何ものでもない。インドの大手全国紙で記者として働く友人は「そもそも誰に対するメッセージなのか? トイレにアクセスできないような人が、インターネットでこんなビデオを見るとは思えない」と指摘する。
この意見は一理ある。だがユニセフのような国連機関は、こうしたキャンペーンやメッセージを見ることができるような人に向けて、トイレを利用できない人の現状を伝え、何らかの手助けをしてもらうきっかけになればいいと考えているのだろう。国連機関が働きかけている相手は、決して被害の当事者だけではない。アフリカの飢餓への寄付などがいい例だ。
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