創業は「紙」、今は「IT」――ビッグデータのカギを握る男に迫る:上阪徹が探る、リクルートのリアル(4/4 ページ)
リクルートの事業は「紙メディア」でスタートしたが、今や「IT企業だ」という声もある。たくさんのエンジニアを抱えるが、その中にビッグデータの開発に携わった男がいる。その男の名前は中野猛氏。現在ドイツに拠点を置いている彼をインタビューした。
仕事なのか、趣味なのか
4年目、事業開発のシステム担当になる。事業にひもづいてシステムを考えたり、再構築をする。多くのシステム担当者は、パートナー企業をディレクションする形で仕事をしていた。ところが、中野氏は、パートナー企業と一緒になって考えていた。
「周りの同僚は、そんな細かいところはどうでもいいというか、もっと大局でシステムを見ていたんですが、僕はパートナー企業のレベルでああだこうだ文句言うと言いますか、面白がって設計していましたね。細かいところが大好きだったので」
おかげで分かってきたことがあった。パートナー企業は、安全や安定を重視する、という文化だ。当然かもしれない。使ったことがないシステムを導入して、顧客に迷惑をかけるのはリスクが高すぎるのだ。
「でも、ネットの最先端の世界を自分でのぞいてみたら、そうじゃない世界があることが見えてきたんです。そういうところで流行っているものと、実際に会社が入れているものがだいぶ違うよね、と思うようになって。安全や安定を重視するためだけに、どうしてこんなものに3000万円も払ってるんだ、みたいな。疑問が気になっていくわけですね」
自ら技術に踏み込んだからこそ、見えたのだ。この発想が、後にオープンソース技術を活用した大きなコスト削減へとつながる。当時の中野氏の担当領域はWeb系の新規事業。次第に自由度は増していった。転機は『R25』のシステム担当を務めたことだった。
「リクルートで珍しいメディアだったんです。どのくらいトラフィックを集められるか、というモデルの事業。これは、システム的には非常に大変なんです。大量のトラフィックに耐えないといけない。ただ、リクルートのコスト感では見合わない。システムにお金がかかり過ぎると言われて、何とかしないといけなかった」
パートナー企業と一体になって、ああでもない、こうでもない、と議論する一方で、中野氏は自ら技術開拓に向かう。
「このころからですね。今もそうですけど、仕事なのか、趣味なのか、分からないような、分離していないような状態になったのは。『R25』にしても、当時としては本当にとんでもないトラフィックですから、なかなか楽しい感じで。しかも、どんどん増えていく。その対処法を自分で見つけて、いろいろ試したりできるわけです。それこそ、お砂場的というか。お金もしっかりついてきて、技術で楽しくやれる場というか」
オープンソースで使えるかもしれないと思った技術は次々にチェックした。米国のIT企業や新興企業が使っている技術を家で実験することもしばしば。やがてパートナー企業が「それは無理です」ということに対して、「こうやればできますよ」と言えてしまう自分がいた。
「嫌な社員ですよね(笑)。そのうちいろいろなプロジェクトに呼ばれるようになり、R&D的(企業の研究・開発業務および部門)な仕事が増えていって。技術的にも明るい上司がいましたので、そのあたりも恵まれていました。本当に軽い相談から始まって、『あれはどうなった?』と聞かれ続け、仕方がないから家で仕上げる、みたいなことが続いて」
やがて新たな相談ごとがやってきた。メディアが使っている検索エンジンにコストがかかり過ぎている。なんとかならないか、と。
(つづく)
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