『窓ぎわのトットちゃん』が救った電車たち:杉山淳一の時事日想(1/4 ページ)
長野県の安曇野ちひろ公園で、かつて長野電鉄で活躍した電車2両が保存展示されるという。よいニュースだ。しかし他の保存車両たちは、朽ち果てる運命のようだ。もちろんなんでも保存していけばキリがない。とはいえ、観光資源として生かす方法を検討していただきたい。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
長野県松川村と安曇野ちひろ美術館(松川村)が『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子著)にちなむ施設「トットちゃんの広場」を2016年夏にオープンする。同書に登場する「電車の教室」を再現するという。
松川村は「電車の教室」を作るため、長野電鉄から古い電車2両を無償で譲り受ける。1両は黒板や机を置いて教室を再現し、1両は図書室にする計画である。地元紙『信濃毎日新聞』によると、現在は長野電鉄の旧屋代線信濃川田駅(長野市)にあり、9月下旬から10月上旬にかけてトレーラーで輸送する予定だ(参照リンク:「松川村に「トットちゃんの広場」 黒柳徹子さんら会見」(信濃毎日新聞))。
このニュースは鉄道ファンだけではなく、『窓ぎわのトットちゃん』を知る世代の心を揺さぶる。私もその一人である。『窓ぎわのトットちゃん』は、女優、黒柳徹子さんの自伝だ。1981年に出版されると、空前のベストセラーとなった。出版当時、黒柳さんは対談番組『徹子の部屋』が5年目、歌番組『ザ・ベストテン』の司会が3年目の時期。どちらも高視聴率で、お茶の間の主婦から流行に敏感な若者まで、誰もが知る人気スターとなった。2014年現在もその知名度は衰えず、『徹子の部屋』は今年で38年目である。みなさんがご存じの通り、2014年4月より放送時間帯を正午からに移したことでも話題となった。
そんな人気スターの自著『窓ぎわのトットちゃん』の衝撃は大きかった。読者はまず、人気者の黒柳徹子さんが小学校を退学になっていたという事実に驚かされる。そして、転入した学校「トモエ学園」のユニークな教育方針と、彼女の在学中のエピソードの一つひとつに感動する。当時、中学生だった私も本書を読んで、強いメッセージを受け取った気がした。読書の喜び、本の影響力の強さ。教育とはなにか。そして「電車の教室っていいなあ……」と。
同書に登場する「トモエ学園」は、現在の東京・自由が丘にあった。前身は「自由が丘学園」で、自由が丘という地名と駅名はこの学校名に由来するという。『窓ぎわのトットちゃん』によると、「トモエ学園」のシンボルが「電車の教室」だった。この電車は東急電鉄の前身、東京横浜電鉄で廃車になった車両が譲渡されたとのことだ。
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