上司は隣の部署の社員も評価しなければいけない――なぜそんなことを?:上阪徹が探る、リクルートのリアル(4/5 ページ)
成果主義、実力主義を導入している企業は増えてきたが、売上高が1挑円を超えるリクルートではどのような人事制度を導入しているのだろうか。経営企画室長の今村健一氏に話を聞いた。
現在の人事制度
現在の人事制度では、個人評価と人材開発プログラムにおいて、重要な施策が3つ行われている。ひとつは、360度サーベイ。上司や同僚、部下によるアセスメント評価だ。そしてもうひとつが、自己評価と上司の評価との擦り合わせ。これはA3を縦に使った「Will-Can-Mustシート」と呼ばれるシートを使って行われる。シートにはこうある。「Will:今の仕事においてあなたが主体者として実現したいこと/2〜3年後のキャリアイメージ」「Can:活かしたい強み・克服した課題/能力開発を実現するための具体的な行動」そして「Must」やらなければいけないこと。
シートはかなり細かく書き込めるようになっており、本人の記入欄と上長のコメント欄がある。このシートをもとに上長と話し合い、欄を埋めていく仕組み。そして「Must」はベースミッション、内容、目標テーマ、プロセス、達成基準など、かなり詳細に書き込めるようになっている。
「評価というのは、なかなか一筋縄ではいかないんです。自分はこれが強みだ、と思っていたら、上司にはそうは見えないこともある。むしろそれは課題だ、と突き返されることもあります。そうすることによって、上司が達成してほしいミッションもはっきりしてくるし、それをクリアすることで、目指したい自分に近づける。任せる仕事をどう与え、評価をし、次の育成につなげるか。これをサイクルとして回していくためのシートなんです」
上長の役割は極めて重要になることが分かるが、実は上長の大きな役割はこれだけではない。3つ目の施策「人材開発委員会」の存在だ。これは例えば、課長が部下の社員の育成プランを考えるとき、直属の課長だけではなく、同じ部に属する課長全員で集まり、議論するのである。例えば、5人の課長で50人の部下を一人ひとり見ていくのだ。もちろん時間がかかる。しかも、上司の課長以外は直属の部下ではない。しかし、だからといって分からない、は通用しない。
「隣の部署の上司が、隣の部署の社員についてコメントがまったくできない、となると責められます。上司としての役割を果たせていない、と。どうして自分の組織のことしか見ていないのか。仕事の接点はあるだろう。どう感じたのか。強みは何で、弱みは何か。たった一度の仕事の関わりでも分かることはある。そのときどう感じ、どうアドバイスしたのか……。関わりとその人物に対する見立てを問われ続けるんです」
上司は隣の部署の社員にも目を配っていなければならないということだ。研修に出るもよし、日頃のコミュニケーションもよし。だが、分からない、は許されない。上長は本当に大変である。実際、なったばかりのマネージャーの多くが、最初は音を上げるという。
「これをレイヤーごとにやります。メンバークラスは、課長全員と部長でやります。課長のものは部長全員でやります。部長の人材開発委員会は、全役員で行います」
そしてこのとき、この社員にはこんなポジションもできるのではないか、もっとこんな役割を与えたほうが伸びるのではないか、課長にすべきか、部長にすべきか、といった極めて具体的な話がその場で交わされていくのだ。だから、結果を出したり、ポテンシャルがあると見なされた社員は、若くても大胆に抜てきされる。複数の上司によって、丁寧にその本当の能力が発掘されていくのだ。
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