安倍政権が掲げる成長戦略、「残業代ゼロ」が少子化を加速させる:INSIGHT NOW!(1/3 ページ)
安倍政権が掲げる成長戦略にはさまざまな政策が含まれるが、大方針や優先度付けが欠如しているためか、政策間に矛盾が見受けられる。企業で改革プログラムを立案・推進するときは、こうした事態に陥らないよう注意しなければならない。
著者プロフィール:日沖博道(ひおき・ひろみち)
パスファインダーズ社長。25年にわたる戦略・業務・ITコンサルティングの経験と実績を基に「空回りしない」業務改革/IT改革を支援。アビームコンサルティング、日本ユニシス、アーサー・D・リトル、松下電送出身。一橋大学経済学部卒。日本工業大学 専門職大学院(MOTコース)客員教授(2008年〜)。今季講座:「ビジネスモデル開発とリエンジニアリング」。
国家、産業、企業のいずれの単位でも、大きな改革を進める場合には1つだけではなく、いくつかの政策を組み合わせた「政策パッケージ」として打ち出して推進することが多い。安倍政権が掲げる“3本目の矢”である成長戦略もまた、多くの政策群から成り立っているものだ。
中でも雇用と労働の規制緩和は注目すべき政策群だろう。具体的には、解雇ルールの明確化、非正社員の継続雇用、労働時間規制の適用除外の3つが代表政策で、安倍政権は雇用特区でこれらの規制緩和を行い、その後全国に適用することを狙っている。
こうした規制緩和の狙いは、「外国資本の日本への投資意欲を高めるため」や「働き方の多様性を広げるため」という建前が掲げられてはいるが、産業界(特に大企業)が強く要望しているものであり、実際には「いかに安い労働力を確保するか」「働き盛りのサラリーマンにいかに安く働いてもらうか」といった人件費の圧縮が本音だろう。
“残業代ゼロ”の導入は慎重に検討するべき
代表政策の3つは、それぞれ重大な問題を内在する“劇薬”だが、特に3つ目の時間規制の適用除外は潜在的なインパクトが大きい上に、日本社会最大の課題である「晩婚少子化対策」と真っ向から矛盾する性格を持つ。仮に法案が成立しても、特区での実施状況と副作用を慎重に検証する必要がある。
時間規制の適用除外とは“残業代ゼロ”の対象を、年収が1000万円を超える社員のほか、労働組合との合意で認められた社員に広げることを検討するものだ(いずれも本人の同意が必要)。ちなみに、現在の労働基準法で残業代ゼロが認められているのは、部長職などの上級管理職や、研究者などの一部専門職に限定されている。
こうした政策が、特区だけでなく全国に拡大されれば、やがて年収のハードルがジリジリと下げられる可能性が高い。労働組合が同制度を認めた会社において、上司から「よい評価をされたいなら合意せよ」と迫られたときに拒否できる従業員は少ないだろう。その主なターゲットは管理職手前の層、30代の中堅サラリーマンだ。まさに子育てに向き合わなくてはならない世代である。
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