米国から20年遅れた“サプリ後進国”ニッポン、規制緩和は行うべきか:伊吹太歩の時事日想(1/3 ページ)
安倍政権の成長戦略で掲げられた、サプリメント類の表示規制緩和。機能や効能を記載できるようにするものだが、サプリを売りたい企業と、治療費を維持したい医療側で対立が起きている。ここで、20年前に規制緩和を行った米国がどうなったのか見てみよう。
著者プロフィール:伊吹太歩
出版社勤務後、世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材、夕刊紙を中心に週刊誌「週刊現代」「週刊ポスト」「アサヒ芸能」などで活躍するライター。翻訳・編集にも携わる。世界を旅して現地人との親睦を深めた経験から、世界的なニュースで生の声を直接拾いながら読者に伝えることを信条としている。
6月19日、米国のユタ州ソルトレイクシティで、統一栄養補助食品連合会が主催するサプリメント(健康補助食品)関連の会議が行われた。“サプリメント界の中心地”とも言われるソルトレイクシティに拠点を置く同連合会は、自然食品やサプリメント関連の国際的な企業を束ねる組織だ。
世界のサプリ市場規制を検討するその会議では、日本が話題に上った。同連合会のローレン・イスラエルセン理事長は、「日本は巨大市場だ。だが2004年以降、かの地で彼ら(サプリ市場)は成長を実現できていない」と語った。米国のみならず、世界中で日本市場への注目度が高まっている。
なぜ今日本が注目されているのか。それは、安倍政権の成長戦略の1つとして、サプリ業界の規制緩和について議論が続いているからだ。2013年6月、安倍首相は「健康食品の機能性表示を解禁いたします」と発言し、健康食品やサプリの表示規制緩和を閣議決定した。
薬事法で定められている医療品の定義には“身体の構造または機能に影響を及ぼすもの”という文言があるため、サプリや健康食品は機能をうたってはいけない。そうすると「医薬品」となってしまうためだ。消費者庁は2013年末に「食品の新たな機能性表示制度に関する検討会(参照リンク)」を設置し、機能性表示をどう規制緩和するか議論を続けている。
規制緩和をめぐる、企業と医療の対立
安倍発言の背景には、年間1兆円ずつ増え続ける医療費の問題がある。
政府はこの負担を減らすために、病院で処方される薬だけではなく、サプリなどを使った「セルフメディケーション」を推進しようと考えている。要するに、病院でどんどん薬をもらって医療費に負担をかけるのではなく、軽い症状ならば栄養補助食品などを使った自助努力で健康を維持してもらおうというのだ。
だがそんな政府の思惑に、賛否のせめぎ合いが続いている。現在は厳しく規制されているサプリの栄養機能表示を緩和することで、今以上にサプリを製造・販売していきたい企業側と、今まで通りの患者と治療費を維持したい医療側が対立している。
安倍政権は、今回の規制緩和のモデルとして1994年に米国で制定された「栄養補助食品健康教育法」(DSHE法)を参考にしようとしている。現在日本でサプリの効能をうたえないのと同じように、米国でも94年より以前はサプリに対して非常に厳しい規制があったが、このDSHE法によって大々的な規制緩和が行われた。
日本はサプリメント分野で“米国から20年以上遅れている”と言われる。今、安倍政権が、米国で20年前の1994年に制定されたDSHE法をモデルにしようとしていることからもそれは明らかだ。米国でも当時、今の日本と同じような、医療側とサプリ関連企業の対立があった。20年も前に規制緩和を行った米国では、その後何が起きたのか。そして今、米国はどういう市場環境にあるのか。一連の流れを振り返ってみよう。
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