米国から20年遅れた“サプリ後進国”ニッポン、規制緩和は行うべきか:伊吹太歩の時事日想(2/3 ページ)
安倍政権の成長戦略で掲げられた、サプリメント類の表示規制緩和。機能や効能を記載できるようにするものだが、サプリを売りたい企業と、治療費を維持したい医療側で対立が起きている。ここで、20年前に規制緩和を行った米国がどうなったのか見てみよう。
米国人の半数はサプリを摂取している
米国の一般的な家庭を見たことがある人なら分かると思うが、近年のサプリ普及率は驚くほど高い。現在、米国人の半数は少なくとも1種類のサプリを摂る。国内では8万5000種類と言われるサプリが販売され、その市場規模は320億ドルに達しており、毎年6〜7%の成長を続けている。特定の病気を治療するためにサプリを飲む人もおり、米国の市場規模は、2021年までに倍になると予測されている。
米国では1994年の規制緩和から、製造や販売、有効性の主張まで、基本的に企業の自由裁量になっている。米国では食品や医療品、化粧品を管理する米食品医薬品局(FDA)の許可なしで、サプリを販売できるのだ。FDAも製品に何らかの問題が報告されない限りは、調査にも動かない。
ただし、完全な無法地帯というわけでもない。例えば“心臓血管の健康を維持する”と効能をうたう場合、容器のどこかに“FDAに評価されていない”“この製品は治療用ではありません”といった医薬部外品表示を記載する必要がある。要するに薬ではないことを明確にする必要があるのだ。
また、製造管理および品質管理に関する基準を満たした製造工場で生産され、容器に示された成分が間違いないかを証明する「分析試験証明書」を求められれば提示する必要がある。さらに、含有物は政府に事前に認可されたものを使う必要がある。
規制緩和に一役買ったメル・ギブソン
1994年の規制緩和を一気に後押ししたのは、俳優のメル・ギブソンだった。彼が出演した規制反対のCM(参照リンク)が話題になったこともあり、FDAの規制に反対する法整備が一気に行われた。CMの内容は、武装した特殊部隊がギブソンの自宅を急襲し、ビタミンCを摂ろうとした彼を逮捕するというものだ。ロビー活動の一環としてはかなり大掛かりで、規制緩和を求める本気度がうかがえる。
これは国民の権利に訴えたCMだった。「何を食べ、どんな健康維持をするのかは、個人に決める権利がある」という米国らしいコンセプトが根底にあったために、人々の心に響いたと言える。
ギブソンの“逮捕劇”から20年、米国のような自由裁量になると、権利を得た消費者は賢くなることが求められる。サプリを飲んでアレルギーが出ても、それは自己責任。自分で判断するとなれば、きちんとした製品を買おうという意識が働く。ちょっと怖い気もするが、それが今米国では普通である。
米国ではサプリがファッションになっている部分もある。サッカーのデビッド・ベッカムはオメガ3(魚のオイル成分)のサプリメントを毎日飲んでるから口が臭いというニュースが出て話題になったり、今最も人気の米女性歌手ケイティ・ペリーは毎日自分が摂る大量のサプリを写真に撮ってツイートしたことで大きな話題になった(参照リンク)。こうした“露出”がサプリ人気を後押ししているのは間違いない。
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