その「贈りもの」、誰のため? もしかして「自分へのごほうび」?:博報堂生活総研・吉川昌孝の「常識の変わり目」(1/2 ページ)
「昔はこうだったのに」──。これまでの常識とは違うことが常識になりつつあると感じる事象はありませんか。データで読み解くと、常識の変わり目が見えてきます。今回はお中元の季節ということで「贈答」の変わり目を探ります。
博報堂生活総研・吉川昌孝の「常識の変わり目」
30年以上にわたり生活者を研究し続けてきた「博報堂生活総合研究所(生活総研)」。同研究所の主席研究員である吉川昌孝氏が、さまざまなデータを独自の視点で分析し「常識の変わり目」を可視化していくコラムです。世の中の変化をつかみたいビジネスパーソンに新たなモノの見方を提供します。
著者プロフィール:吉川昌孝
博報堂生活総合研究所主席研究員。1965年愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒。著書に『亞州未来図2010−4つのシナリオ−』(阪急コミュニケーションズ・共著)、『〜あふれる情報からアイデアを生み出す〜「ものさし」のつくり方』(日本実業出版社)などがある
そろそろお中元の季節ですね。ところが、お中元・お歳暮のフォーマルギフト市場はここ数年縮小傾向にあるというニュースもよく耳にします。博報堂生活総合研究所が1992年より2年に1回、生活のあらゆる領域を定期的に調査している「生活定点」(参照リンク)の贈りものの項目から、「贈答の常識の変わり目」を見つけました。
「お中元を毎年欠かさず贈っている」の項目は、1998年から徐々に下降。一方、「自分へのごほうびとして何かを買ったことがある」はじわじわ増加しています。そして、2006年から2008年にかけて両者の割合は逆転しました。贈りもの行動の主流は「他人へ」から「自分へ」と変わったのです。
まず、お中元を贈らなくなった理由として考えられるのが「父の日、母の日の一般化」です。
Yahoo!JAPANが2014年5月に実施した「お中元意識調査」(参照リンク)によると、贈り先の半数以上が「自分または配偶者の両親」としています。しかし最近は、母の日(5月の第2日曜日)と、父の日(6月の第3日曜日)がしっかり定着してきたため、お中元としてあえてまたプレゼントをしなくても……という意識が広まってきているようです。博報堂生活総合研究所の生活定点調査でも、「父の日を祝った」「母の日を祝った」の数値は微増しています。別の贈答機会と競争が激しくなり、結果としてというわけですね。
次に、2008年秋に起きたリーマンショック。取引先へのお中元やお歳暮は、これまでビジネスの潤滑油として重宝されてきました。しかしリーマンショック後は、多くの企業が経費を削減せざるを得ず、お中元もお歳暮は「虚礼」とするマイナスの見方が広がりました。これもお中元が劣勢になった理由の一つと考えられます。
さらに2006年以降は、SNSの普及で知人の誕生日情報を知る機会が増えました。ネット上での人間関係を維持する潤滑油として、20〜40代の人を中心に気軽な贈りものをする例が増えています。季節ごとのフォーマルギフトから、日常的なプチギフトへ。こんな流れもお中元の苦戦を引き起こしていそうです。
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