それでも“一歩も引かない”プーチンが抱えるリスク:藤田正美の時事日想(1/2 ページ)
ロシアの格安航空会社、ドブロリョートがEUの制裁によって運行停止に追い込まれた。プーチン大統領はそれでも、欧米への態度を軟化させる兆しを見せない。彼は一体どのような幕引きを考えているのだろうか。
著者プロフィール:藤田正美
「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
ロシアを代表する航空会社アエロフロートの子会社で、格安航空のドブロリョートがすべての運航を停止した。ドブロリョートはクリミア行きの便を運行していたことから、EU(欧州連合)委員会が対ロシア制裁の一貫としてこの航空会社を制裁リストに加え、EU内の企業などと取引することを禁じたためだ。
ウクライナ危機をめぐるロシアへの制裁強化は、加盟28カ国のそれぞれの立場を考慮しつつ、何とかまとまった。これで米国と足並みをそろえて制裁に踏み切ることになる。これまでの「口先制裁」に比べると、今回の制裁は効果が大きい。
ロシアに最も影響があるとされているのは“金融面”の制裁である。ロシアの一部大手銀行がEUや米国で長期資金を調達することを禁じたからだ。ブルームバーグが報じたところによると、VTB銀行やロシア貯蓄銀行、ロシア開発対外銀行などは、今後3年のうちにドルやユーロ、スイスフラン建ての債券などの約150億ドル(約1兆5000億円)が償還期限を迎える。
もし、欧米の金融市場で資金を調達できない状態が続けば、デフォルトに陥る可能性もある。国からの資金援助はもちろんあるだろうが、エネルギー輸出に頼るロシアにとってはそう簡単な話ではない。
それにしても、ロシアのプーチン大統領はどのような幕引きを考えているのだろうか。少なくともロシアは、絶対に譲れないクリミア半島は手に入れたし、欧米もクリミアは仕方がないと思っているはずだ。ウクライナがEUに加盟したとしても、NATO(北大西洋条約機構)という軍事同盟に入らなければ、ロシアの安全保障にとって「現状維持」という言い方はできる。
だがプーチン大統領は、欧米との関係をここまで悪化させてもなお、ウクライナ東部の親ロシア派支援を止める気配を見せていない。それどころか、シベリア上空を通過する空路を制限、または禁止する可能性をチラつかせている。
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