それでも私たちは『朝日新聞』を許さなくてはいけない:窪田順生の時事日想(1/3 ページ)
『朝日新聞』が相次ぐ誤報で揺れている。ネット上では大騒ぎになり、安倍政権では「(朝日新聞を)国会招致すべきだ」という批判も出始めた。しかし、筆者の窪田氏は「非寛容な対応」を続けると、新たな問題が生まれるという。それは……。
窪田順生氏のプロフィール:
1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。
JR東日本の川越駅(埼玉県)で目の見えない少女が通学中、何者かにローキックされた。
報道によると、少女の白杖につまずいて転倒した知的障害者の40代男性が「報復」をしたということらしい。男性は受け答えにも満足にできないそうで事実とすれば、社会的弱者が社会的弱者への暴力を振るうという、なんともやりきれない話である。
この事件が注目を集めたのは、全盲の方が蹴られるというショッキングさもさることながら、「社会的弱者」に対するさまざまな意見が飛び交ったことだろう。
例えば、今回の全盲少女の件に関しても、ネット上では「杖で転ばして謝ってないんだから悪い部分もあるんじゃないの」という人や「そもそもラッシュ時に全盲の人が歩いていたらみんなの迷惑」なんて意見が出た。
そう聞くと、なかには「こんなバカな考えをもつヤツがいるからダメなんだ」とか怒りに震える方も多いかもしれないが、そうとも言い難い。ひとつの「正義」だけしか認められない社会より、こういう多種多様な意見が出てくるほうが社会としては健全だからだ。
身障者へのローキックを擁護(ようご)する人たちを一掃したら、弱者に優しい理想的な社会がつくれるのかというとそうではない。画一的な思想を追い求め続けて、それに異を唱える者たちを排除していくということが理想な社会をつくることにはならず、むしろ「粛清」か「虐殺」へつながっていくということは社会主義が証明している。
そういう歴史の教訓を踏まえ、現代社会では「死ぬまで分かり合えない連中もいるけれど、それが世の中ってもんだよね」という「寛容」さが大事だとされてきた。要するに、暴走族や犯罪者は社会のダニだから、44マグナムで脳天を撃ち抜こうなんて「ドーベルマン刑事」みたいな発想はダメダメというわけだ。
そういう意味でいうと、韓国なんかは不健全の極みである。
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