国を超えた富の移転は実現するか――EUが抱える、根本的な矛盾:藤田正美の時事日想(1/2 ページ)
IMFが世界経済の成長率見通しを下方修正した。現在最も懸念が大きいのは、日本型デフレに陥るリスクを指摘されているEUだ。ただ、EUが抱える問題はこれだけではない。域内の財政を1つにする上で、富の移転を国家レベルで行えるかという“壁”がある。
著者プロフィール:藤田正美
「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
10月10日から12日にかけて、米国のワシントンでIMF(国際通貨基金)と世界銀行の年次総会が開催された。中心となった話題は何と言っても、IMFが世界経済の成長率見通しを下方修正したことである。世界の国々で、今安定して経済が回復軌道に乗っているのは米英だけだ。そのほかの先進国は“エンスト”状態で、近年世界を引っ張ってきた新興国もブレーキがかかったと言える。
中でも最も懸念が大きいのはEUだ。ECB(欧州中央銀行)がABS(資産担保証券)などの買い入れによる量的緩和を行っているものの、なかなか景気は上向かない。2%というインフレ目標があるにもかかわらず、着実に物価上昇率はゼロに近づいているのが現状だ。このままでは“日本型デフレ”に落ち込むという見方が強くなっている。
これまでEUを引っ張ってきたドイツもおかしい。4〜6月期はマイナス成長だったが、この7〜9月期も鉱工業生産などが伸びず、マイナス成長に落ち込むのではないかとみられている。2期連続でマイナスとなれば“景気後退”と言わざるを得ない。イタリアは2年連続でマイナス成長だし、フランスもほぼゼロ成長になっている。
EUが“日本型デフレ”に落ち込むというのは、要するにバブルの後遺症が続いているということだ。金融機関が不良債権を抱えたままでは、新しいリスクを取ることもできず、かつ資金調達も円滑に進まない。かつての各国規制当局による銀行監督から、ECBの一元管理に変わって、ゾンビ銀行の整理が進むと思われたが、そう簡単な話ではなかった。いくら一元管理と言っても、それぞれの金融機関に“祖国”がある以上、それは大きな政治問題になりかねないからだ。
EUの場合、最大の問題は“地域格差”だろう。2010年に国の頭文字を取ってPIIGS(ピッグス)と揶揄(やゆ)された国家債務危機(ソブリンリスク)。問題になったのはポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインの5国が国債を発行するために大きなリスクプレミアム(リスクに対する対価、ここでは金利を指す)を払わなければならなくなったことだ。10年ものの国債に30%を超えるような金利を払うのではとても資金繰りがつかない。
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