「言論」を力で抑え込めば「ヘイト」が生まれる:窪田順生の時事日想(3/4 ページ)
超党派の議連が今国会中に「人種差別撤廃基本法案」(仮称)を提出しようとしている。ヘイトスピーチを規制して「差別を許さない空気をつくる」そうだが、筆者の窪田氏は「『規制』などしてもそんな“空気”が生まれるとは思えない」と考える。その理由は……。
「ヘイト」は「力」で消えない
テロ対策などを提言するシンクタンク「キリアム」は、今のイスラム国に合流しようという戦闘員は「殉教を覚悟するまで過激化していなければならない」と分析し、組織としての「危険度」が増したとみる。
事実、カナダではオタワ議会での銃乱射事件や、警官殺害などが発生しているほか、スイスでは欧州で爆発物や毒ガスでのテロを企てたイスラム国の支持者が逮捕されている。このような「ホームグロウン・テロ」(ある組織の思想に共感した国外の個人が引き起こす自発的なテロ行為)は空爆が激しくなればなるほど過激化して、一般市民も標的になっていく。
ただ、これはちょっと考えれば、当たり前の流れだ。
イスラム国側の主張にサイクス・ピコ協定(1916年、英国、フランス、ロシアの間でオスマン帝国の領土を三等分することを決めた密約)の撤廃があることからも分かるとおり、彼らを突き動かしているのは、欧米諸国に対する憎しみ、そして民族としての誇りを踏みつぶされたことに対する怒りだ。
そんな「憎悪」を空爆という「暴力」で握り潰したらどうなるか。「ボクたちが間違っていました、ゴメンなさい」なんて白旗を振るわけはなく、国際社会の不平等さを呪い、最後のひとりになるまで徹底抗戦を決意するのではないか。あるいは、家族や仲間を殺された者は、同様の苦しみを味合わせてやろうと復讐を誓うのではないか。
「ヘイト」は「力」で消えない。むしろ、力を加えることでとんでもない“モンスター”を生み出してしまう。
ヘイトスピーチでも、この構造は変わらない。サイクス・ピコ協定ではないが、彼らが「ヘイト」を抱く背景には、戦後日本が抱えてきた長い歴史・民族問題がある。「あいつらは日本人じゃないから差別しようぜ」なんて、昨日今日ぽっと出たような話ではない。
その「ヘイト」を「規制」という国家権力で抑え込んだらどうなるか。イスラム国同様に、「モンスター」になる。在特会どころではない過激思想をもつ団体が生まれるかもしれない。
そんなことを言うと、民主党の議員なんかから、「ヘイトスピーチ規制は世界の常識」とか「放置していたら日本の国際的な信用を低下させる」という声が聞こえてきそうだが、一概にそうとは言えない。
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