「競合エアラインに後れを取るな」 ANAが2年前に新設した組織の狙い:ビジネス変革を推進(3/3 ページ)
外資航空会社を筆頭にダイナミックなビジネス改革が行われているエアライン業界。そうした競合に後れを取るわけにはいかないとANAも組織変革に乗り出している。
人手をかける文化
いかにこれまでの業務をより良く変えていくか。業務プロセス改革室でのそうした議論の中で着目されたのは、ANAの強みであり弱みでもある“人手をかける企業文化”だった。「いまやインターネットの進化やモバイルデバイスの急速な普及によって、顧客自身でチケット予約やチェックイン手続きなどができる時代になったが、依然としてANAでは必要以上に人手をかける業務が多い」と吉村氏は話す。
例えば、悪天候などでダイヤが乱れたり、機材変更で便が遅れたりするとき、メールでは失礼だということでわざわざカスタマーセンターから顧客に電話をかけることがそうだ。もしかしたら顧客の本心としては、電話で仕事を邪魔されるより、いち早くメールで一報をもらい、自分の好きなタイミングで問い合わせしたいかもしれない。
「係員が電話するよりもメールを送るほうがはるかに人的コストは安い。しかし、従来よりも顧客満足度を下げてはいけない。さらに顧客の体験価値を向上させつつコストを削減する。この両立こそが業務プロセス改革室が目指すところなのだ」(吉村氏)
客室乗務員やライン整備員の業務を改革
業務プロセス改革室が取り組んだ成果の1つが、冒頭に触れた客室乗務員へのiPad配布である。ただし、デバイスやツールありきではなく、仕事をどう変えたいかがポイントとなった。大きな目的は、紙ベースの業務マニュアルの電子化によってこれまでの業務負荷やコストを低減し、時間価値を上げることにあった。
それ以前は、一人当たり3冊、総量にして約2キログラム、1000ページにわたる分厚いマニュアルを客室乗務員は常に携行していた。当然、内容改訂のたびに印刷やページ差し替え作業が発生しており、その数は年間で600ページに及んだという。iPadを活用することでペーパレス化などが図れたのである。
さらに、教育訓練も短縮できた。紙教材に代えてiPadに動画教材などを配布することで、客室乗務員に対する集合形式の教育の一部を自己学習でできるようになった。同社によると、集合教育期間を従来比で30%削減した。
iPadを活用した機内サービスの向上についてはこれから本格的に取り組む段階だが、既に現場からは顧客へのサービスの前提となる情報量が格段に増えたなどの声が出ているという。客室乗務員にとどまらず、今ではパイロット向けに約2500台、ライン整備部門に400台のiPadを導入して、業務プロセス改革を進めている。
業績好調な勢いを止めることなく、さらなる業務改善に取り組み、航空業界で画期的なイノベーションを次々と引き起こしていく――。こうしたANAの原動力として今後も業務プロセス改革室への期待は大きいはずだ。
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