「競合エアラインに後れを取るな」 ANAが2年前に新設した組織の狙い:ビジネス変革を推進(2/3 ページ)
外資航空会社を筆頭にダイナミックなビジネス改革が行われているエアライン業界。そうした競合に後れを取るわけにはいかないとANAも組織変革に乗り出している。
立ちはだかる“組織の壁”
その役割変更の大きな理由は、縦割り組織に伴う業務の非効率性を解消することにあった。ANAの主な業務は、顧客向けには航空座席の予約、販売、チェックイン、マイレージプログラム管理運営など、社内向けには経営管理、運航管理、生産管理、セキュリティ管理などがあるが、それぞれの業務とそれにかかわるシステムがバラバラに運用されていたため横連携がスムーズにできず、“組織の壁”を前に部分最適になりがちであった。しかしながら、IT推進室は各事業部門のニーズを受けてシステム構築する受け身の立場であり、全社横断的な視点からの提案をするスタンスを持ち得ていなかった。
加えて、IT推進室はあくまでシステムの安定稼働を最優先に考えていたため、基本的には守りのスタンスが強く、例えば、IT視点から事業拡大に向けたビジネス改革を各部門や全社に提案するといった発想はほとんど持ちえなかったという。
社長直下の新組織を
縦割り組織による弊害はITに限った話ではない。ANA 業務プロセス改革室 イノベーション推進部 サービスイノベーションチームでリーダーを務める吉村裕子氏は、かつて予約・販売のマーケティング部門に在籍したとき、空港業務への新たな提案を行おうとしたが、そこには専任の担当者がいるので細かな仕組みの変革には手を出すことができなかったという。
社員だけの不便ならともかく、顧客向け業務に関しても、結果として縦割り対応になっていた。業務やシステムが分断されているので、例えば、顧客は予約やマイレージに関する問い合わせなどをそれぞれの窓口へ別々に行う必要があった。いわゆる二度手間、三度手間を強いていたのである。
こうした社内業務の非効率さや顧客の利便性などに関する課題を解決するため、業務全体とITの融合は不可欠だった。そこで、マーケティング部門や空港部門などの現場業務に深く精通する人材を集めてIT人材と融合することで、業務プロセス改革およびシステム全体を統括する業務プロセス改革室ができたというのが誕生の背景である。
設立に際しては経営トップの強い意思があったという。というのも、国内外の競合エアラインは、ITとマーケティング、商品戦略などを一体化してビジネス改革に取り組んでいたため、ANAとしても後れを取るわけにはいかなかった。業務プロセス改革室が社長直下の組織であるのもそうした理由からだ。
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