なぜLINEの「既読スルー」にイラッとするのか コンセンサスなき紛争:烏賀陽弘道の時事日想(2/5 ページ)
LINE、Twitter、FacebookといったSNSの利用をめぐってトラブルが相次いでいる。PCやスマホなどから気軽に自分の言葉を発信できるのが大きな魅力なのに、なぜトラブルが起きてしまうのか。
「快・不快のコンセンサス」が完全に瓦解
「Twtterでつぶやくと社会が変わる」「Twitterが3.11の災害救助で大活躍」――。
などなど「SNSユーフォリア(有頂天)」が喧伝(けんでん)されたのは2010〜11年ごろである。それ以来、インターネット(特にSNS)はユートピアだけではなく、ディストピア(ユートピアの逆)的な現実ももたらすことは、人々は学習したのではないか(関連記事)。
一連のLINE既読スルー事件で私が興味をもったのは、長い時間をかけて社会がつちかってきたコミュニケーションに関する「快・不快のコンセンサス(了解事項)」が完全に瓦解してしまった、という事実だ。
冒頭の男性が驚いたのは「LINEで送られてきたメッセージを読んでも返事をしないと、それは相手にとっては暴行に及ぶほど不快なことだ」という暴行に及んだ側の認識が、あまりにも彼の認識からかけ離れていたからである。が、事件を起こした若者たちにとっては、LINEのメッセージを送って「既読」になっているのに返事がないというのは「国交断絶」「宣戦布告」「最後通牒」に似た不快極まる行為だったのだろう。
ここで両者の間には「LINEの既読スルーをどう受け取るか」という共通理解がまったく存在しないことに気づく。この認識のズレは「40歳代男性」と「10代の若者」という年齢差が起こしたのではない。「LINEを使っているかどうか」というコミュニケーション・メディアの差である(そもそも、LINEを使わない人、あるいはSNSやネットを使わない人にとっては、この若者たちの「逆上」はまったく理解不可能である)。
これはあながち当て推量ではない。これまで、新しいSNSが登場し普及するたびに、特定のユーザーの間に生まれたあるコンセンサスが、別のユーザーにはまったく了解されておらず、両者の間で摩擦が起きる、という現象を、私は頻繁に目撃してきたからだ。
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