エボラ出血熱が引き起こす“次の悲劇”とは――流行地の実情:国境なき医師団の活動に見る(2/3 ページ)
エボラ出血熱に命を賭けて立ち向かう国境なき医師団。西アフリカの地で、エボラ出血熱が実際にどのような影響を与え、医療者はどのように対応しているのか――現地の実情に迫ります。
エボラ出血熱を扱う施設と装備
まず、こういった感染力の高い感染症の治療に当たるためには、施設の工夫が大切です。どういう施設でエボラ出血熱の患者の対応をしているのでしょうか。下の図を見てください。エボラは接触感染する上に致死率が高いため、患者の隔離が必要です。高リスク区画を分けており、そこにスタッフが入る場合は特殊な防護服を着用します。
次に、高リスク区画を詳しく見ていきましょう。エボラ出血熱の感染が検査により確定された患者、エボラ出血熱を疑う症状が出ている患者を、ここに受け入れます。
エボラ出血熱は非常に感染時の致死率が高いことから、感染が検査で確定している人、感染の可能性が高い人、感染が疑わしい人など、感染の可能性の高低で分けて扱う必要があります。それは、感染が疑わしいだけで実際感染していない人が、感染者と触れ合って本当に感染してしまう怖れがあるためです。
そのために、このように患者の区画や医療者の往来のルールを厳しく決めた施設で患者の対応に当たるのです。
また、エボラ出血熱には特効薬がないため、患者に行うことができる最善の策は、対症療法(症状を和らげる方法)で死亡率を下げることです。
マラリアなどほかの病気になっていないことを確認し、脱水症状が出いている患者には点滴を打ちます。ビタミンと鎮痛剤を使用することもあります。ただし、患者が意識を失い、多量に出血し始めた場合は助かる望みがないため、苦痛を和らげて最後まで寄り添う看護に切り替えます。
感染者の治療にあたるスタッフ全員が、防護服や手袋、マスク、ゴーグルを着用しています。これらの防護グッズは2時間おきに取り替えます。そもそも、西アフリカの地では密閉状態となる防護服が熱すぎて防護服の中に汗が溜まっていくため、1時間ほどしか活動できないそうです。
医療従事者がエボラ出血熱に感染してはいけないので、患者と患者の間には十分なスペースを設け、厳格な感染制御策を講じています。また、図のように高リスク患者と低リスク患者は異なる区画に収容されています。十分な数の照明で明るさを確保し、廃棄物管理を安全に行えるようにし、病棟の清掃と消毒は定期的に行われています。
国境なき医師団の各事務所から派遣している外国人スタッフは1カ月ほどで任務を終えるようになっています。理由は、過度の疲労蓄積を避けて、リスクの軽減を徹底するためです。
高い致死率を持つエボラ出血熱は患者がつぎつぎと亡くなるため、肉体的疲労のみならず精神的にも疲労がたまっていくのです。また、スタッフは常に2人1組で業務にあたります。これもお互いの安全に注意を払い、相方がミスをしないよう、そして疲労をためないように徹底する目的です。
以上のように、自らの安全を確保しながら過酷な仕事を行っているのです。
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関連リンク
- 国境なき医師団 日本「エボラ出血熱」(2014年11月7日取得)
- World Health Organization, 2014, “Ebola responce roadmap”(Retrieved November 7,2014)
- Centers for Disease Control and Prevention, 2014, “Ebola”(Retrieved November 7,2014)
- 国立感染症研究所「西アフリカ諸国におけるエボラ出血熱の流行に関するリスクアセスメント」(2014年11月7日取得)
- 厚生労働省検疫所 FORTH「エボラ対策に関するロードマップ」(2014年11月7日取得)
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