プーチンの「不満の冬」が始まる――日本はロシアからエネルギーを買うべきか否か?:藤田正美の時事日想(1/2 ページ)
原油価格が下がっている。今年前半1バレル=100ドル超えだったWTI価格は、最近では70ドルを切る日もあるほど。原油相場の下落に頭を悩ませているロシアのプーチン大統領にとって、今年の冬は厳しいものになりそうだ。
冬はロシアにとって強い味方だ。ナポレオンがモスクワに迫ったときも、ナチス・ドイツがスターリングラードに迫ったときも、結局ロシアは冬に守られた。しかし今年の冬はロシアにとって「不満の冬(Winter of discontent)」になりそうだ。
この「不満の冬」というフレーズは、シェークスピアの悲劇『リチャード3世』に出てくる台詞である。不満の最大の理由は原油の値下がりだ。一時は米国の原油価格指標であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)は1バレル70ドルを切ってきた。今年前半は100ドルを超えていたが、中国やインドといった新興国経済が減速したことを受けて、急激に下がっている。
ロシアにとって、原油相場の下落は痛い。ロシアにとって輸出の約7割は原油や天然ガスであり、相場の下落は国家収入に直接影響する。その影響は為替相場に現れている。すでにルーブルの対ドル相場は過去半年でほぼ30%下落している。
ルーブルの下落が続けば、ロシア企業の対外債務の返済が難しくなるだろう。対外債務残高は5000億ドル(約60兆円)とされ、そのうち1300億ドルは2015年中に返済期限を迎える。為替の下落で外貨の調達コストが上がれば、返済不能というケースも出てくる。もちろんロシア側は返済のリスケジューリングを求めるだろうが、そうなればさらに通貨が売られるかもしれない。
当面、原油価格が反転する可能性はあまり大きくない。先日のOPEC(石油輸出国機構)総会で、産油国が減産する可能性もあると見られていたが、最大の産油国であるサウジアラビアは生産を維持する方針を打ち出した。価格よりもシェアを確保するということのようだ。価格が下がれば、アメリカのシェール革命にも一定のブレーキがかかる。値段が下がれば、開発のリスクが大きくなるからだ。実際、住友商事も期待したほどのオイルが出ないことから、1700億円という損失を計上することになった(参考記事)。
ウクライナ紛争への対応に「弱腰」の批判も
さらにロシアはウクライナ東部での紛争を抱えている(参考記事)。ドネツクに住む親ロシア派住民は相変わらずウクライナ政府に抵抗を続け、ロシアは軍事物資や戦闘員を供給して親ロシア派を支えている。こうした状態に米国を始めとする西側諸国は、ロシア政府周辺、あるいは国有企業、金融機関などに制裁をかけている。
これがじわじわと効果を上げているともいう。たとえばロスネフチのような巨大国営石油会社でも資金繰りが苦しくなり、政府に対して440億ドルの融資を申し入れたとされている。報道ではプーチン大統領は難色を示しているというが、実際のところ国が70%の株式を保有する国有企業を倒産させることはできまい。
プーチン大統領としては何とかドネツクから足を抜きたいに違いない。いくらドネツクが「分離」を求めてもウクライナは断固拒否をするだろう。もしロシアが表立って軍事介入すれば、それこそNATO(北大西洋条約機構)との間で戦争になる可能性だってある。逆に言うとプーチン大統領にとって「戦争」という選択肢はない。しかしロシア国内の雰囲気はクリミアを奪還できたあたりから,西側に対して不満が高まっている。プーチンは“弱腰”だという論調も根強い。
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