「ネット世論」を分析しても、選挙の結果は“逆”になる理由:烏賀陽弘道の時事日想(2/5 ページ)
衆議院選挙の投票があり、与党(自民党・公明党)の大勝という結果に終わった。大方の予想どおりとも言えるが、筆者の烏賀陽氏はネット上に飛び交う意見を見ていて、あることに気づいたという。それは……。
流入する情報をパーソナライズ
しかし、結果は真逆だった。自民党は大勝して与党に返り咲いた。民主党の大物や有名議員がコテンパンに敗北して消えた。反原発を唱えた政党(社民党など)に至っては消滅寸前になった。私もびっくりした。ネット内の言論や温度と、あまりに反対になったからだ。
驚いたのは私一人ではなかったようだ。ネットにはその落差を何とか説明しようとしたのか「得票集計が操作されている」「マスコミが自民党に買収されている」「マスコミ報道が偏向している」と各種の陰謀説が飛び交った。
ネット(特にSNS)ユーザーには「似たような意見や価値観の持ち主との交流や意見交換を好む」「その結果、意見や行動は均質化・急進化する」傾向があることは、前回、前々回の本欄で書いた。私がそう確信したのも、この2012年12月の総選挙の時だ。
私が「もしかすると原発推進の流れが変わるかもしれない」と錯覚したのは、「たまたま、そういう意見の持ち主ばかりをネット上で見ていたから」だと気づいたからだ。特にTwitterやFacebookといったSNSでは「誰の情報が流れてくるか」を自分で選ぶ、つまり流入する情報をパーソナライズすることができる。いくらランダムに選んでいるつもりでも、似た価値観の人たちからの言論がSNSのタイムライン上に流れる「傾向」ができていたのだ。
そもそもネットは、日本の全社会を代表できるマスメディアではない。使用者にはっきりとした「偏り」がまだ残っている。1998年から2008年の10年間で普及率2〜30%の「少数派」から70〜80%の「多数派」に転じたとはいえ、注意しないと、この普及の伸びの急激さに目を奪われ、非ネットユーザーの巨大さを忘れがちになる。
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