「ネット世論」を分析しても、選挙の結果は“逆”になる理由:烏賀陽弘道の時事日想(5/5 ページ)
衆議院選挙の投票があり、与党(自民党・公明党)の大勝という結果に終わった。大方の予想どおりとも言えるが、筆者の烏賀陽氏はネット上に飛び交う意見を見ていて、あることに気づいたという。それは……。
自民党支持者はネットに縁遠い
だからと言って「若者が投票に行かないのが悪い」というのは結論を急ぎすぎである。ゆえに「投票に行くよう意識を変えよう」「若者が政治に関心を持つようにしよう」というのも、おめでたいファンタジーにすぎない。元々の有権者数が3倍も違うのである。もし「若者VS. 老人多数決決戦」というのを日本でやったら、若者は完敗するのだ。これは少子高齢化という「先進国病」(欧米など経済発展が円熟した国はどこも少子高齢化した)の症状であって、人口ピラミッドだけは大規模な移民を認めない限り修正ができない。
かくして「老人受けする政策ばかり実行」→「若者は見捨てられ、経済的・精神的に疲弊」→「選挙に行かない」→「政治家は選挙では能率のよい老人を狙う」→最初に戻る。「老人大国化」の単純再生産のサイクルに入ってしまうと、国政はますます停滞するだろう。
なお、念のために付け加えておくと、ネットユーザーには「非老人」「都市住民」「非低所得者」という3つの大きな特徴がある(本稿では議論を単純にするため年齢だけを考察した)。これを裏返して「老人」「非都市住民」「低所得者」とすると、自民党の支持層になる。すなわち自民党支持者はネットに縁遠いとざっぱくに考えておいたほうがよいだろう。つまりネット世論だけ見ていると、自民党支持の動きはまるごと外側になり、視野から落ちてしまう。
では、いつになったらネット世論と選挙結果が近似してくるのだろうか。これも身も蓋もない話で恐縮だが、「現在の老人層が自然減したら」つまり「死んで減ったら」そうなる可能性が高い。現在の65歳あたりを境界にネット普及率が崖を落ちるように急減する事実から推測すると、65歳以上の諸先輩方がご逝去されるころ、あと10〜20年でネット世論と選挙結果が近似してくる。そのころになれば、ネット選挙ももう少し進んでいるかもしれない。日本の社会変革が起きるとするならば、このへんが起点になるのではないか。これでも楽観的なシナリオだが。
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