「スーパーニッカ」は、ニッカウヰスキーの歴史を語る存在:マッサンの遺言(2/2 ページ)
リタおふくろが亡くなった翌年の1962年、政孝親父と共につくりあげた『スーパーニッカ』が発売された。これは、現在も私にとって特別なウイスキーである。
『新スーパーニッカ』の誕生
しかしボトリングしてみて困ったのは、容器の大きさが一定ではないための入れ目のふぞろいであった。多く入っているように見えるものにはクレームはこなかったが、やはり瓶上部に空白が多いものは「量が少ないじゃないか」とクレームがきた。容量は一緒なのだが、なにぶん手吹きなのでボトルの厚みがわずかに違う。そう説明してお客さまに納得していただいた。720ミリリットル入りで3000円。大卒初任給が1万5000円前後だった時代にずいぶんと贅沢な価格設定だったが、それでも「飲みやすく味わいのあるウイスキー」と評判になり売れ行きも伸びていった。
1964年、東京オリンピックが開催された年には5色のリングの色をガラスで出した『スーパーニッカ』の5本セットを限定販売した。価格は1万5000円。残念ながら私の手元には残っていないが、とても美しいボトルだった。
『スーパーニッカ』は順調に売れるようになったが、手吹きのボトルでボトリングも手作業で行わなければならず、大量生産は不可能だった。やがて1968年の酒税引き上げによって従価税率220パーセントの適用で多額の酒税がかけられることになった。ボトルがクリスタル製のためコストも高く、当然価格も高いものになる。しかも輸出用酒として外国市場に出す場合、コスト的にスコッチウイスキーと対抗することが不可能という難点もあった。結果『新スーパーニッカ』が誕生したのである。
1970年に発売された『新スーパーニッカ』はボトルの素材やデザイン、容量も国際規格の760ミリリットルに設定した。長年貯蔵した原酒とカフェグレーンをブレンド。宮城峡蒸溜所の完成によって原酒の生産が増えたため、余市蒸溜所の原酒もふんだんに使うことができるようになっていた。
西宮のカフェグレーンと宮城峡蒸溜所ができたおかげで『スーパーニッカ』に使用できる原酒が増えたのは喜ばしいことだった。しかしいきなり品質が変わるとお客さまは違和感を感じてしまう。同じ銘柄のウイスキーを好んで飲んでいる人はなおさらだ。品質は向上させたいが、すぐに変えてしまうのはかえって逆効果である。そのため長い歳月をかけて少しずつブレンドを変えていくのだが、この加減が難しい。一度、ある製品で少しばかりスピードをあげたら、てきめんにクレームがきてしまった。
人間の味覚というのは繊細で、だからこそつくる側の人間は神経を使う。同時にそれがウイスキーづくりの醍醐味でもある。『スーパーニッカ』が誕生後、現在の中味は当初のブレンドとは違っているが、政孝親父が口にしたなら、きっと顔をほころばせて「うまいじゃないか」と言ってくれると信じている。
貯蔵庫と研究室の往復の日々が懐かしく思い出される。ブレンドが完成したときの喜び、各務クリスタルで初めて『スーパーニッカ』のボトルと対面したとき、「これがいい!」とボトルを抱きしめて離さなかった政孝親父。『スーパーニッカ』を味わうと、いつも浮かんでくるのは政孝親父の顔、そして琥珀(こはく)色の夢を支え続けたリタおふくろの優しい笑顔なのだ。
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