「ワシは自分の顔をラベルに使うほど厚かましくないぞ」:マッサンの遺言(1/2 ページ)
ニッカウヰスキーが独自のブレンデッドウイスキーをつくりはじめた「原点」ともいえる『ブラックニッカ』。現在も黒い瓶だが、バーなどのボトル棚でも目立つ存在であることに変わりはない。
集中連載「マッサンの遺言」について
本連載は、竹鶴孝太郎・監修、書籍『父・マッサンの遺言』(KADOKAWA/角川マガジンズ)から10部抜粋、編集しています。
2014年10月期にスタートしたNHK連続ドラマ小説「マッサン」。
小説のモデルになったのは、日本の本格ウイスキーづくりに情熱を傾けたニッカウヰスキーの創業者竹鶴政孝氏。マッサンとリタの素顔をその息子が語る。
ニッカウヰスキー2代目マスターブレンダー、竹鶴威の回想録。
次の一手
特級ウイスキー『ブラックニッカ』が発売されたのは1956年。まだ宮城峡蒸溜所もカフェグレーン設備もない頃で、使われているのは余市蒸溜所の原酒のみだった。
当時は戦後初めてのウイスキーブームで、あちこちでニッカ、トリス、オーシャンなどの名をつけたバーが林立。今でこそバーでビールやカクテルなどが飲まれているが、その頃はウイスキーが主流であった。
スコットランドでウイスキーづくりを学んだ政孝親父は、スコッチのブレンデッドウイスキーはモルト原酒と穀類からつくるグレーンウイスキーをブレンドさせてつくるものだ、ということを知っていた。だが当時、日本ではまだ中性スピリッツ=アルコールとモルト原酒を混和していた。
政孝親父が求めるグレーンウイスキーを蒸溜するためには、カフェ式連続蒸溜機(※1)が必要になる。カフェ式連続蒸溜機は原料の香味成分を除去しきれないという点で純粋アルコールづくりには適さないが、ウイスキーづくりにとっては、その副産物である香味成分こそが重要なものとなる。ぜひとも導入したい設備だが、資金が不足していた。そこに助け舟を出し、積極的に援助してくださったのが、朝日麦酒(現・アサヒビール)の山本為三郎社長であった。
カフェ式連続蒸溜機は政孝親父と私が一緒にスコットランドまで行って、グラスゴーの機械メーカー、ブレアーズ社で購入した。型は伝統的な四角型と丸型があったが、先方は政孝親父の気性を心得ていて「(竹鶴さんは)四角いほうを選ぶでしょう」と言った。こちらも最初からそのつもりだった。
念願のカフェ式連続蒸溜機が西宮工場(※2)に導入されたのは1963年。運転を始めたが、当時でも前世紀の遺物のような機械である。本場スコットランドでもほとんど使用されていない上に、技術指導に来たスコットランド人が早々に帰国してしまったため、悪戦苦闘するのは目に見えていた。
カフェ式連続蒸溜機でつくるグレーンウイスキーは香味成分が残るのが特徴ではあるが、適切に残すのは大変難しい。塔数が多ければ精製機能は高くなり、その蒸溜液は純度が高い分、香りも味わいも薄いものになってしまう。ニッカウヰスキーのカフェ式連続蒸溜機はメインが二塔しかないため、その分、香味成分の豊かな蒸溜液を得ることができる。
だが、その作業には技術が必要なのだ。試運転の最中に原料が詰まって空転してしまうこともたびたびで、試行錯誤を繰り返し、ようやく品質が安定したグレーンウイスキーがつくられるようになった。そして1965年、余市蒸溜所のモルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドした『ブラックニッカ(1級)』(※3)が誕生したのである。
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