370万人が参加したデモ行進が、うさん臭く感じる理由:窪田順生の時事日想(3/5 ページ)
フランスの週刊紙『シャルリーエブド』が襲撃され、12名の命が奪われた。罪のない一般市民に向けられた暴力は許せないが、その後のデモ行進などに対し、筆者の窪田氏は「うさん臭さを感じる」という。その理由は……。
ミエミエの商業主義
イスラム教を冒とくしたとして作家が処刑宣告を受けた『悪魔の詩』のように遡(さかのぼ)ろうと思えばいくらでも遡ることができるが、今回の件に直接的に関係あるのは2006年に欧州で起きた「ムハンマド風刺キャンペーン」だ。
ご記憶にある方も多いと思うが、デンマークの新聞が風刺画で予言者を茶化したことに端を発し、フランスのルモンド紙など欧州や米国でイスラム教を批判する風刺画や映像が競い合うように発表されたのである。
当然、イスラム社会は反発する。ガザのEU事務所前には武装集団が現れ謝罪を要求して威嚇(いかく)発砲をしたほか、テヘランではデンマーク大使館に火炎瓶も投げ込まれた。インドネシアやパキスタンなどのアジアのイスラム国でも抗議デモが起こって西側諸国の国旗が焼かれた。この騒動を受けて国連のアナン事務総長(当時)が「報道の自由は常に、すべての宗教の信仰と教義を完全に尊重する形で行使されなければならない」と声明を出したが、西側のジャーナリズムは聞く耳をもたなかった。当然だ。
従軍慰安婦問題における朝日新聞の対応を見ても分かるように(関連記事)、報道機関が「抗議に屈して謝罪する」というのは敗北を意味する。逆にイスラムを茶化し続ければ「どんな権威にも屈しないジャーナリズム精神」なんて調子で硬派なイメージを売ることができる。
そういうミエミエの商業主義がゆえ、2012年9月にシャルリーエブドがムハンマドを女性に見立てた風刺画を出した時も、良識あるフランス人は批判の声をあげた。仏国際関係戦略研究所のパスカル・ボニファス所長が毎日新聞の取材に対して、「彼ら(イスラム教徒)はよく組織化されておらず、政界との強い結び付きもないので、(シャルリーエブドにとって)たたきやすい相手だ」と述べたが、そのとおりだと思う。
そう聞くと、いやシャルリーエブドに代表されるフランスの風刺画は、キリスト教だって茶化すし、過去には国王だってバカにした。報道の自由はすべておいて優先されるものでタブーなど存在しないのだ、なんて反論する人がいるが、それはガチガチの建前論というか、妄想に過ぎない。
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