お腹が減った、どうすれば? 福島原発に近いホテル(1泊7500円)に宿泊:烏賀陽弘道の時事日想(3/5 ページ)
筆者の烏賀陽氏は、福島原発の被災地を南北に貫く国道6号線を取材して、その日は近くのホテルに宿泊することに。シングル1泊7500円。決して安くないホテルで目にしたものは……。
1泊7500円のホテルに宿泊
午後4時を過ぎると、阿武隈山地の稜線に日が傾き始めた。私は道を急いだ。40キロ地帯を南に抜けたところにあるホテルをネットで予約していた。
2012年に入るころから、浜通り地方のホテルや旅館は、まったく予約できなくなった。電話してみると「半年先まで長期予約で埋まっていて無理」と答えが返ってくる。除染や津波がれきの復旧作業の作業員宿舎として、元請企業が宿という宿を押さえてしまったのだ。アパートも品薄になった。それどころか、あちこちの空き地にプレハブの作業員宿舎が建てられていった。
そんなおり「バリュー・ザ・ホテル広野」という新しいホテルをネットで見つけた。ネットで場所を確認すると、国道6号線のそば、40キロ地帯をちょうど南に抜けた場所にある。料金は、シングル1泊で7500円。
場所に覚えがあった。事故前はサッカーのナショナルトレーニングセンターだった「Jビレッジ」のそばだ。2012年7月、立入禁止区域(警戒区域)内の家に半年ぶりに一時帰宅する夫婦に同行取材したとき、ちょうどここの「検問」を通った。ここで国道6号は通行止めだった。検問で一時帰宅の許可証をチェックされ、防護服や靴カバー、線量測定のガラスバッジなどの「一時帰宅セット」をくれた。Jビレッジは原発内部の復旧作業員の準備やスクリーニングの施設として使われていた。一帯は「原発事故対策村」のような様相だった。
国道6号線が開通したいま、あの場所はどうなっているのだろう。そう思って前を注視した。当然というか、検問はもうない。しかし警戒区域内部から「道の駅」に移転してきた警察署はまだ戻れないらしく、そのままだ。
カーナビは信号を右に曲がれと言っている。こんな場所にホテルがあったっけ? と首をひねりつつハンドルを切ると、工業団地として造成された場所に砂利が敷き詰められ、白いワゴン車やライトバンがずらりと並んでいた。車体には除染を元請けしたゼネコンの名前が見える。札幌から鹿児島まで、全国津々浦々のナンバープレート。その車列の向こうに、二階建てのプレハブ建物が見えた。そこが目指す宿だった。
関連記事
- 朝日やNHKが選ばれない時代に、私たちが注意しなければいけないこと
インターネットが勃興し、新聞やテレビといった旧型マスメディアが衰退しつつあると言われている。結果、何が変わったのか。筆者の烏賀陽氏は「ニュース・センターが消滅した」という。その意味は……。 - 原発報道、なぜ詳しい人が書かなかったのか
原発報道の記事を読んで「書いている意味がよく分からないなあ」と感じた人も多いのでは。「定年退職したが、東電や原発などを担当していた元記者を呼び戻そう」といった声もあったが、実現しなかった。その背景には、組織の事情があったようだ。 - 福島原発に近い「国道6号線」が開通――そこで何を目にしたのか
原発事故後、3年半ぶりに「国道6号線」が開通した。除染作業の人員や物資を輸送するために道路部分だけが開通したが、住民が戻らないままのエリアはどんな姿に変わり果てたのか。筆者の烏賀陽氏が現地リポートする。 - 観光客はどこに行ってるの? 位置情報のデータから分かったこと
「観光客がどこに行っているかって? そんなの分かるはずがない」と思っている人も多いのでは。実は、ゲームやスマートフォンの位置情報を使って、“観光客の動き”が見えてきたという。大分県の湯布院や岩手県を訪れた人は、どんな特徴があるのだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.