お腹が減った、どうすれば? 福島原発に近いホテル(1泊7500円)に宿泊:烏賀陽弘道の時事日想(4/5 ページ)
筆者の烏賀陽氏は、福島原発の被災地を南北に貫く国道6号線を取材して、その日は近くのホテルに宿泊することに。シングル1泊7500円。決して安くないホテルで目にしたものは……。
宿泊客は作業服姿ばかり
それにしても不思議な「ホテル」だ。建物はピカピカなのだが、プレハブなのでどこかチープ感が漂う。フロントの横にはパチンコ台やスロットマシンが並んだ娯楽室があって、作業服のオジサンが放心したようにパチンコをしている。隣では、マッサージチェアで白髪の男性が何人か死んだように眠っている。廊下を歩くとコインランドリーがあり、分別ゴミ箱がある。隣に漫画雑誌が積み上がっている。壁に「がんばろう東北」という寄せ書きが張ってある。
ホテルチェーンの案内が貼ってあった。「明日に希望をもって仕事をする人たちへ、心安らぐひと時を……」。ホテルのある場所が書かれていて、宮城県名取市(314室)、宮城県石巻市(82室)、宮城県大崎市(513室)、宮城県東松島市(423室)、そしてここ、福島県広野町(275室)。なるほど。このホテルチェーンは津波や原発災害の復旧作業員の宿舎を当て込んで営業しているらしい。うまい商売だと感心した。
私の部屋は遠い端だった。2階建て275室はけっこう広い。廊下をとぼとぼと歩いた。すれ違う宿泊客は作業服姿ばかりだ。
部屋にはユニットバスとベッドだけがある簡素な部屋だった。短期出張用のスーツケースを広げると、床が見えなくなる。エアコンはちゃんと効く。清潔だし、目覚まし時計から歯ブラシまで必要なモノはそろっている。しかし、それだけだった。絵とか花とか、潤いのあるモノは何もなかった。除染・復旧作業に全国から人が集まっていた。ひとり遠くから来て、この部屋で寝泊まりする人のことを想像した。原発事故の除染や復旧現場から戻って、メシを食って、ユニットバスで洗車のように体を洗い、眠るだけ。味気なさそうだった。
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