ネットが“パンドラの箱”を開けた……テロの歴史とメディアの関係:烏賀陽弘道の時事日想(3/4 ページ)
過激派組織「ISIL(イスラム国)」が日本人の人質を殺害した。これまでも日本人が誘拐され、殺される事件はあったが、ISILが従来の武装組織と違うのは、マスメディアの使い方ではないだろうか。
テロリストのリスクが低下
記者たちが人質になったり、処刑されたりするようになったのは、このころからである。記者に頼らなくても、ネットで情報発信できるから、記者の利用価値が著しく低下したのだ。人質にして身代金を取る、あるいは交渉の材料に使う。利用価値があるとすると、それくらいしかない。
自分で動画を撮影し、世界に発信できるのだから、わざわざ危険を犯してマスコミが集まっている場所にまで出かけてテロをする必要もなくなった。ISILはミュンヘンまで出かけたり、アテネで飛行機をハイジャックしたりしない。じっと自分たちの支配区域にとどまっている。
そして、占領地にいた、あるいは近づいてきた外国人を捕まえ、人質にして動画や写真をネットで公開する。相手国政府にメッセージを送る。それどころか、人質の家族に直接メールを送り付けることまでする。それがすべて支配地域にいるままできてしまう。そのたびに、人質の国をはじめ国際世論は引っかき回される。
人質が処刑されても、犯人は武装集団が占領した地域にいるのだから、ミュンヘン事件のように反撃して射殺することはおろか、特定すらできない。皮肉だが、インターネットの普及のおかげで、テロリストのリスクはずいぶん減ったはずだ。
ISILが公開したビデオを見て、ロゴや文字の入れ方など編集クオリティが高いのに感心してしまった。かつてはテレビ局の巨大なコンソール(コンピュータを操作するために使う入出力装置のセット)でないとできなかった高度なビデオ編集が、今ではノートPC、いやそれどころかタブレット端末のアプリでできてしまう。戦闘の合間に移動しながらでも、電源と回線さえあれば作業はできる。デジタル機材が発達・普及してテロの「クオリティ」も上がった。そうした編集作業を仕事や趣味でやっていた人材が参加しているのだろう。
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