創業139年、エリクソンはなぜモバイル業界で生き残れるのか:エリクソン VS ノキア(3/3 ページ)
サイバーショット携帯やウォークマン携帯を作っていたソニー・エリクソン。その親会社であるスウェーデンのEricssonは今、大きな成功を収めている。変化の激しいモバイル通信業界を同社はいかに生き抜いてきたのか。隣国フィンランドのNokiaと比較しながら考察していく。
トップの地位を維持するには「変革」が必要
10月の第3四半期の業績発表の際、電話取材に応じたエリクソンのベストベルグ氏は、「10年前は売り上げの3分の1だったソフトウェアは、現在では3分の2に達している」と述べた。「テレコム分野は今後、もっとIT分野のようになる。われわれはテレコム分野におけるソフトウェアモデルを主導していく」と続ける。ここでは、Cisco Systems、IBM、Accentureなどとも競争することになる。
エリクソンは「ネットワーク社会」というビジョンを提唱するだけではなく、業界の変革を手助けするために業界別のサービス・コンサルティング事業も立ち上げた。まずは運輸、公益の分野を狙う。以前なら顧客であるテレコムオペレーターを介していたが、ボルボとの提携ではボルボの車載システム用のクラウドをエリクソンが直接構築・管理する。
クラウドでは、IT業界の空気を取り込むべく、パブリッククラウドJoyentの共同創業者、ジェイソン・ホフマン(Jason Hoffman)氏を口説き落とした。春からエリクソンのクラウドシステム・サービス担当トップとしてスウェーデン在住となったホフマン氏は、エリクソンをバイキングにたとえる。「スウェーデン人の本質は海外に征服するバイキングと、おとなしい農耕民族の両方。バイキングモードになると攻撃精神を発揮し、それが終わると幸せな農耕民族に戻る」とホフマン氏。クラウドではエリクソンのバイキングモードを活用して攻める、と笑う。
トップの地位を維持することは簡単ではない。ベストベルグ氏は、「継続的に自分たちを変革(transform)すること」と戒める。ソニー・エリクソンの売却、ホフマン氏の起用などはエリクソンの変革のための対策となる。
トップの決断や方針を伝えるため、エリクソンでは年に一度、CEOが幹部層250人を一同に集めたミーティングを開いている。戦略や方向性を理解した幹部がそれぞれの持ち場に戻り、次は自分たちの部下に伝えていくという。変革は受け入れがたいという古いマインドを持った社員もいるだろう、と気になるが、「新しいビジョンに興奮してもらうように、時間を割いて説明して行くしかない」とグローバル戦略開発・ポートフォリオ管理担当トップのミカエル・バック(Mikael Back)氏は過程を説明する。「幸い、エリクソンの社員は良い意味で自社にプライドを持っていて、長く勤めたいという人が多い」という。
5年後はICT企業になっている
「5年後のエリクソンは?」とバック氏に聞いてみた。「ICTカンパニーになっているだろう」とバック氏は展望する。既存のテレコムオペレーター、サービスプロバイダとの関係を維持しつつ、新しい業界の顧客も抱えており、IT業界で大きなプレイヤーになっているだろう、と将来を描く。
ノキアもジ・エンドではない。マイクロソフトに端末とサービス事業を売却した後、フィンランドのノキアには、その前にシーメンスから株式を取得していたネットワークインフラ事業、「HERE」ブランドで提供する地図サービス事業、そして研究開発・ライセンス事業の3部門が残った。(参照リンク)そして11月末、突然ノキアブランドのAndroidタブレット「N1」を発表して、再び市場を驚かせた。発表の場となったのは、フィンランドのベンチャーイベント「Slush」。国のプライドだったノキアブランドをひっさげ、地元のノキアファンを喜ばせた。
エリクソンもノキアも、ともに100年以上の歴史を持つ(ノキアは150年、エリクソンは139年)。エリクソンが創業者の名を社名とし、テレコムという柱を持つのに対し、ノキアは変容する企業というところだろうか。それともノキアの方が端末にこだわりを捨てきれなかったというべきか――。隣国同士の常か、スウェーデンとフィンランドは、サッカーやホッケーで国の代表が戦うときに盛り上がる。エリクソンの社員は、「ライバルではあるが、頑張って欲しいと思っている企業」とノキアを語る。良き友人、ライバル関係は今も続いている。
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