エリート集団の裁判所が、「ブラック企業」と呼ばれても仕方がない理由:ああ、絶望(前編)(1/5 ページ)
「裁判所」と聞いて「誠実で公平な人ばかりが集まっている」と想像する人も多だろう。しかし、本当にそうなのか。最高裁などを歴任した瀬木比呂志氏に、ジャーナリストの烏賀陽弘道氏が迫ったところ、信じられない事実が……。
「裁判所」「裁判官」という言葉を聞いて、どんなことを想像するだろうか。「裁判官は公平な判決を出さなければいけない。なので裁判官は誠実な人ばかり」といった感じで、全幅の信頼を寄せている人も多いだろう。
残念ながら、現実は違うようだ。最高裁事務総局民事局付などを歴任した瀬木比呂志氏は「国民の期待に応えられる裁判官は、今日ではむしろ少数派。また、その割合も少しずつ減少している」と言う。彼の指摘が正しければ、あなたは“トンデモ裁判”に巻き込まれて、今後の人生に絶望するかもしれない。
裁判所は中立、裁判官は優秀――。そのように信じていた組織と人はどんな問題を抱えているのだろうか。現役時代、周囲から「エリート中のエリート裁判官」と呼ばれた瀬木氏に、ジャーナリストの烏賀陽弘道氏が迫った。前後編でお送りする。
プロフィール
瀬木比呂志(せぎ・ひろし)
1954年名古屋市生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。1979年以降裁判官として東京地裁、最高裁等に勤務、米国留学。並行して研究、執筆や学会報告を行う。2012年明治大学法科大学院専任教授に転身、専門は民事訴訟法。著書に『絶望の裁判所』『ニッポンの裁判』(ともに講談社現代新書)、『リベラルアーツの学び方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2015年5月刊行予定)、『民事訴訟の本質と諸相』『民事保全法』(ともに日本評論社)など多数の一般書・専門書のほか、関根牧彦の筆名による芸術論や創作があり、文学、音楽(ロック、クラシック、ジャズなど)、映画、漫画については専門分野に準じて詳しい。
烏賀陽弘道(うがや・ひろみち)
フリーランスの報道記者・フォトグラファー。1963年京都市生まれ。京都大学経済学部を卒業し1986年に朝日新聞記者になる。週刊誌『アエラ』編集部などを経て2003年からフリーに。その間、同誌のニューヨーク駐在記者などを経験した。在社中、コロンビア大学公共政策大学院に自費留学し、国際安全保障論で修士号を取得。主な著書に『Jポップとは何か』(岩波新書)、『原発難民』(PHP新書)、写真ルポ『福島飯舘村の四季』(双葉社)、『ヒロシマからフクシマヘ 原発をめぐる不思議な旅』(ビジネス社)などがある。
裁判所は不自由
烏賀陽: 新聞記者は駆け出しのころに、裁判所取材を担当します。29年前の私もそうでした。そのときから「裁判所って、一般の人とは違う論理で動いているのではないか」という違和感がありました。その後、自分が民事裁判の当事者(雑誌『サイゾー』の取材に応じた烏賀陽氏のコメント内容が名誉毀損だとして訴えられた。高裁で実質勝訴)になって、33カ月間裁判所と関わりました。そのとき裁判官と直に接して「裁判所とは不思議なところだ。一般の人とは全く違う論理や価値観で動いている」と確信しました。しかも一般市民の常識から乖離(かいり)した、おかしな方向に進んでいる。
なぜ裁判所はそんなおかしなことになっているのか? と思っていろいろ調べてみたのですが、当事者である裁判官の正直な証言を伝える文献がなかった。そんな中、瀬木さんが書かれた本(『絶望の裁判所』『ニッポンの裁判』〈ともに講談社現代新書〉)を読みました。これまでになかった画期的な証言録だと思います。「新聞記者の駆け出しのころに感じた疑問は間違っていなかった」「そして、そのころから裁判所はもっとひどくなっている」とため息が出ましたね。
瀬木さんは将来を嘱望された裁判官として活躍されてこられましたが、裁判所は働く場所としていかがでしたか? 瀬木さんのようなエリート街道を歩まれた方にとっても、不自由なのですか?
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