エリート集団の裁判所が、「ブラック企業」と呼ばれても仕方がない理由:ああ、絶望(前編)(2/5 ページ)
「裁判所」と聞いて「誠実で公平な人ばかりが集まっている」と想像する人も多だろう。しかし、本当にそうなのか。最高裁などを歴任した瀬木比呂志氏に、ジャーナリストの烏賀陽弘道氏が迫ったところ、信じられない事実が……。
瀬木: 不自由ですね。なぜかというと、日本の裁判所には、戦前と何ら変わりのない上命下服、上意下達のピラミッド型ヒエラルキーが存在しているからです。最高裁長官と14人の最高裁判事が頂点で、その下に高裁の長官が全国に8人いて、序列は東京、大阪、名古屋、広島、福岡、仙台、札幌、高松といった感じ。次に東京、大阪などの大都市の地家裁所長、東京高裁の裁判長と続きます。
烏賀陽: いま挙げていただいた「役職」以外にもヒエラルキーが存在するのですか?
瀬木: はい。相撲の番付表にも似た細かい裁判官のヒエラルキーが存在しているんですよね。時によって順序が少し変わることもありますが、基本的には同じ。
最高裁長官と事務総長の意を受けた最高裁判所事務総局人事局は、人事を一手に握っています。だから、いくらでも裁判官を支配することできるんですよ。人事局が「この裁判官、気に入らないなあ」と思ったら、その人は出世できません。例えば、本来なら東京高裁の裁判長になるような人でも「地方の高裁にとどめておく」「所長にするのも遅らせる」「所長にすらしない」などといった感じで、いくらでも可能です。
こうした人事の恐ろしいことは、何を根拠にして行われているのか分からないということ。
烏賀陽: 分からない、といいますと?
瀬木: 例えば「この裁判官は違憲判決を書いたからけしからん」といったように、基準がはっきり分かっていれば、そのよしあしは別にして基準は明確です。しかし、左遷された理由は「何らかの意味で上層部の気に入らない判決」あるいは「論文を書いたから」なので、基準が分からないし、いつ報復されるかも分からない。その結果、多くの裁判官は、上層部の顔色ばかりうかがうようになるんですよ。
また、気にくわないことをしたらすぐに左遷するわけではなく、時間が経ってから引導を渡すんですよね。例えば、所長になってからでさえ「あなたはもう関東に戻ることはできません。定年まで地方でどうぞ」といった感じで。言われた本人は、理由がよく分からないので、びっくりしますよね。
烏賀陽: 「オレが10年前に書いたあの判決が上の人たちのご機嫌を損ねたのか。いや、それとも、15年前に所長とけんかしたのが……」といった感じですね。
瀬木: はい。基準がなく、時間も経っているので、推測しかできません。
関連記事
- 朝日やNHKが選ばれない時代に、私たちが注意しなければいけないこと
インターネットが勃興し、新聞やテレビといった旧型マスメディアが衰退しつつあると言われている。結果、何が変わったのか。筆者の烏賀陽氏は「ニュース・センターが消滅した」という。その意味は……。 - ブラック企業問題はなぜ「辞めればいいじゃん」で解決しないのか
従業員を劣悪な環境で働かせ、使い捨てにする――。いわゆるブラック企業が社会問題になっているが、なぜそこで働く人は会社を辞めようとしないのか。その背景にあるのは……。 - ブラック企業よりも怖い――「新・ブラック社員」によろしく?
どんなに優秀な社員を投入しても、なぜか生産性が低いまま。しかも、社員が退職してしまう……今日のコラムは、あなたの会社でも起こりうる怖~い実話。その黒幕は「新・ブラック社員」かもしれません。 - NHKが、火災ホテルを「ラブホテル」と報じない理由
言葉を生業にしているマスコミだが、会社によってビミョーに違いがあることをご存じだろうか。その「裏」には、「華道」や「茶道」と同じく「報道」ならではの作法があるという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.