エリート集団の裁判所が、「ブラック企業」と呼ばれても仕方がない理由:ああ、絶望(前編)(5/5 ページ)
「裁判所」と聞いて「誠実で公平な人ばかりが集まっている」と想像する人も多だろう。しかし、本当にそうなのか。最高裁などを歴任した瀬木比呂志氏に、ジャーナリストの烏賀陽弘道氏が迫ったところ、信じられない事実が……。
気に入らない裁判官は“クビ”
烏賀陽: 裁判官が「統制されている」という事実自体が驚きです。というのも、法律上の建前で言えば「裁判官は誰からも独立している」ことになっているはず。権力の介入によってクビにならないように、地位を失われないように、身分が補償されている。裁判官を辞めさせることができるのは国会の「弾劾裁判所」しかない。個人の良心や価値観だけに従ってよい、と憲法で保証されています。
裁判官の身分が保障されているのは、裁判所の最終的な使命が「市民の権利や自由を守ること」だからです。なのに、それが守られていないとなると、市民にとって大きな損失になるのではないでしょうか。
瀬木: 全くその通りです。「司法」の機能が衰退していますよね。下級裁判所裁判官指名諮問委員会というところがあって、最高裁はそこに悪いデータを提出すれば、気に入らない裁判官に引導を渡すことができるんですよ。引導を渡された裁判官は不服を言えないので、このシステムはとても危険なんですよ。
烏賀陽: 裁判所を訴えることはできないのでしょうか?
瀬木: 行政訴訟で訴えることはできるかもしれませんが、結論は見えていますよね。
烏賀陽: 裁判官なのに、訴えても負けるということですか?
瀬木: はい。なぜなら「主張」や「立証」が、ものすごく難しいから。委員会の審議は非公開なので、表には出てきません。だから「こうした人たちに、こう評価されてこうなったが、そこにはこうした不当がある」という理屈を立てることができないんですよね。
烏賀陽: 実に巧妙にできていますね。
瀬木: 「裁判官もサラリーマンと同じで大変です」という話をしたいのではありません。いまの仕組みがこのまま続けば、そのツケは国民のところに回ってくるかもしれません……ということが言いたいのです。
(つづく)
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