裁判官は優秀なはずなのに、なぜ“トンデモ判決”が出てくるのか:ああ、絶望(後編)(5/5 ページ)
認知症のお年寄りが電車にはねられた――。この事故に対して、第一審判決は、奥さんだけでなく、別居をしている長男にまで請求を認めた。こんな“トンデモ判決”が、なぜ出てくるのか。最高裁などを歴任した瀬木比呂志氏に話を聞いたところ……。
報道が最高裁にメス
烏賀陽: では、報道が最高裁にメスを入れることは不可能でしょうか?
瀬木: 政治の中枢を取材するのも難しいですよね。でも、政治や行政からは情報が漏れてきます。なぜならその情報を流した本人には、明確な意図があるから。「今の政権を早くぶっ壊したい」「あの大臣を落としてやりたい」といった狙いがあるから、さまざまな情報が出てくる。
一方の裁判所はどうか。裁判所を取材しても、「最高裁の長官を辞めさせたいから情報を出す」という人なんていません。なぜなら、前回も申し上げましたが、最高裁の長官は絶対的な権力を握っているから。もしその情報を流したのがバレると、その人のキャリアはそこで終了してしまう。バレなくても、その情報の信ぴょう性を問われるでしょう。上層部は自分たちが不利になるような証拠は残しませんし、情報源を示唆することができませんので。
では、全く取材できないのか? そうではないと思います。裁判所を退職した裁判官や職員の中には、さまざまな批判や不満を抱えている人がいるはず。そうした人たちと人間関係を築き、情報源が秘匿(ひとく)されるのであれば、話してくれる人はきっといます。そこから情報を積み上げていって本丸を攻めていくしか方法はないでしょうね。
烏賀陽: まだそれができた記者はいないので、かなりハードルが高いのでしょう。とはいえ、裁判所がこのままではいけません。先ほどお話した認知症鉄道事故判決のようなトンデモ判決の話をよく聞きます。冤罪がさらに増えるかもしれません。
瀬木: 冤罪というのは国家による犯罪。ゼロにするのは難しいかもしれませんが、限りなくゼロに近づけることを考えなければいけません。ただ、いまの裁判所の仕組みでは冤罪がたくさん生まれる可能性が高い。この状況はかなり怖くて、普通の生活を送っていた人が、突然、逮捕されるかもしれないのですから。
烏賀陽: 裁判所の腐敗が進めば進むほど、一般の人が被害者になる確率が上がっていくわけですね。
瀬木: その通りです。
(終わり)
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