誰がテロ行為を起こすのか 予測できない理由は2つ:烏賀陽弘道の時事日想(1/4 ページ)
「インターネットが普及したことでテロ行為の性質が変わった」と筆者の烏賀陽氏は指摘する。どこで誰がテロリストになり、テロ行為を起こすのか。予測ができなくなった理由として2つを挙げている。それは……。
烏賀陽弘道(うがや・ひろみち)氏のプロフィール:
フリーランスの報道記者・フォトグラファー。1963年京都市生まれ。京都大学経済学部を卒業し1986年に朝日新聞記者になる。週刊誌『アエラ』編集部などを経て2003年からフリーに。その間、同誌のニューヨーク駐在記者などを経験した。在社中、コロンビア大学公共政策大学院に自費留学し、国際安全保障論で修士号を取得。主な著書に『Jポップとは何か』(岩波新書)、『原発難民』(PHP新書)、写真ルポ『福島飯舘村の四季』(双葉社)、『ヒロシマからフクシマヘ 原発をめぐる不思議な旅』(ビジネス社)などがある。
前回の本欄で、テロはもともと「情報戦」の一種であると書いた(関連記事)。テロ組織が実現したい政治目的を広めたり、実現したりするために、暴力行為で国際世論の注目を集め「敵」に揺さぶりをかける。1970〜80年代はその目的のために伝統的マスメディアである新聞やテレビが利用された。だからテロ組織はマスメディアを利用するために、記者に危害を加えなかった。
しかしインターネット時代になって、新聞・テレビを経由しなくても、テロ組織が自分で情報を世界に発信できるようになった。「イスラム国」ことISISは、そういったネット時代のテロ組織である。だから記者は身代金を取る人質くらいの利用価値しかなくなった。またテロ組織は、マスメディアの集まる場所に出かけてテロをする危険を犯す必要もなくなった。構成員をリクルートするのにもネットが使われるようになった。こうしてネットはテロのリスクを低減した。そんな話だった。
もうひとつ、ネット時代になってテロ行為の性質が根本的に変わった点を書いておく。いつ、どこで誰がテロリストになり、テロ行為を起こすのか、まったく予測がつかなくなったのだ。その理由は大きく分けて2つある。1つ目は、テロの実行手段である武器や爆薬の入手や製造に関する方法がネットで入手可能になったこと。2つ目は「一般人」をテロリストに変身させる情報伝達がネットでできるようになったことである。
その例として挙げられるのは2013年4月15日にボストンマラソン(米国)のゴール近くに爆弾が仕掛けられ、3人が死亡、282人が負傷した事件である。警察との銃撃戦で捕まった犯人は、26歳のタメルラン・ツァルナエフ(銃撃戦で死亡)と19歳のジョハル・ツァルナエフ(逮捕・起訴され4件の殺人罪を含む30の罪状で公判中。検察当局は死刑求刑を表明。ジョハルは無罪を主張)の兄弟だった。
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