誰がテロ行為を起こすのか 予測できない理由は2つ:烏賀陽弘道の時事日想(2/4 ページ)
「インターネットが普及したことでテロ行為の性質が変わった」と筆者の烏賀陽氏は指摘する。どこで誰がテロリストになり、テロ行為を起こすのか。予測ができなくなった理由として2つを挙げている。それは……。
兄弟をテロへと導く最初のドア
2人がチェチェン共和国系の地域から2002年に亡命してきたイスラム教徒の家庭で育ったため、当初はチェチェンの独立運動やイスラム過激派組織の関与が疑われたが、結局その情報は出なかった。捜査当局は兄弟2人の「単独犯」と見ている。兄は地元のコミュニティカレッジで工学を学んだボクシングの選手で、オリンピック選手を目指していた。弟はマサーチューセッツ大学ダートマス校で口腔衛生学を学ぶ大学生で、Twitterでは「ヒップホップとチーズバーガーの話ばかり書いていた」という。
犯行に使われた爆弾は圧力鍋に釘や金属片を入れて殺傷能力を高めた手製爆弾2つだった。この爆弾の製造方法を兄弟が学んだのは過激派組織「アラビア半島のアル・カーイダ」(AQAP)が発行する(と推測されるが、真相は不明)英語のオンラインマガジン「インスパイア」だったという。オサマ・ビンラディンのメッセージを英語で伝える目的で2010年7月に初めて出た。「イスラム教徒を守り西欧の不正に反撃するための聖戦(ジハド)」を呼びかけ「組織を待たずに個々人が聖戦に立ち上がること」「誰もが参加できるオープンソース型の聖戦」を唱えている。
とはいえ、兄弟をテロへと導く最初のドアを開けたのは、宗教ではなく、社会からの疎外感や、人生の行き詰まりだった。ボクシング選手だった兄は気性が荒く、飲酒癖がひどかった。ガールフレンドを殴ったりケンカが絶えなかった。米国の市民権がなかなか取れず「米国にはなじめない。彼らには人生の価値観が何もない」と不満を募らせていた。そのため、保守的なイスラム信仰に傾倒していた母親の手引きでモスクに通うようになり、酒や女性を断った。そのあとイスラム過激派思想に触れたと報道されている。弟は兄よりおとなしく、友だちから評判のいいフレンドリーな学生だったが、学業は振るわず、いくつかの授業で落第し、学費も滞納していた。
つまり、ここまでの兄弟は「社会に受容されず、挫折感や敗北感を味わった若者」にすぎない。狂信的なイスラム教徒ではなかった。その彼らの社会への怨嗟や攻撃衝動を「不特定多数への攻撃」という形で爆発させる「理由付け」をしたのが、ネットから流れてきたイスラム教過激派の思想だった。そしてその手段を与えたのは、やはりネットから流れてきた「爆弾の製造法」だった。
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